【旅する喫茶店】サロン・ド マルイチ(岐阜)

ソファやカウンターなど内装はほぼ昔の喫茶店マルイチのまま
柳ヶ瀬のあの店でもう一度
「柳ヶ瀬(やながせ)の夜に泣いている」(柳ヶ瀬ブルース)と歌われた昭和の頃、県内一にぎやかだった繁華街も、令和のこの日、道ゆく人はまばらだった。赤いカーペットを敷いた劇場通りや、食堂、洋品店、映画館など年季の入った店が点々と続くアーケード街の風景は、初めて訪れたのにどこか懐かしい。
喫茶店マルイチは当地の歴史を体現する店の一つ。戦後すぐの開業から約70年、市民の憩いの場として愛され続けながら2014年に閉店したが、「柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社」がその場所と名を引き継ぎ、19年、サロン・ド マルイチとしてオープンした。


「調度や間取りはマルイチのままです。名物だったフルーツジュースは常連さんにレシピを聞いて復活させました」と店長の奥岡莞司(おくおかかんじ)さん。パティシエがいて、昔の看板商品をアレンジしたシュークリームのほか、自家製ケーキが並ぶ。スイーツを楽しみながらソファで談笑する地元の人たちの姿が印象的だ。
「前の店主の方や常連さんたちが顔を出してくれるのがうれしい」と話す奥岡さんの経歴も面白い。京大工学部を卒業後、沖縄・石垣島のホテルで働いていて今の会社の代表に出会い、誘われて岐阜に移住してきたという。
若い人が入ってくる古い町は魅力的だ。新旧が織り合わされ、時代に合う新しい魅力を生んで、また別の人を呼ぶ。
文・写真/福崎圭介

旅行読売出版社「旅する喫茶店」2021年9月1日(水)発売 定価1430円(税込)