日本平夢テラスから眺める、この時期だけの富士の絶景(1)
展望回廊から夢テラスの屋根の向こうに清水港と市街地、富士山を望む、開館当時の風景(写真/アクティオ)
開業1年で来場者100万人を突破した人気施設
35歳で沼津に移住した歌人の若山牧水(ぼくすい)は、雲や日光、朝夕や四季によって表情を変える富士の姿に感慨を新たにしたと聞く。葛飾北斎が「富嶽(ふがく)三十六景」で描いたように、富士の姿は場所や季節によってそれぞれの趣と存在感を際立たせるようだ。
北斎が描いた、主に晩夏から初秋の早朝に赤く染まって見える赤富士もいいが、やはり富士山といえば月並みながら、空気が澄み山容がよりはっきりと見える冬、冠雪を頂く姿が印象深い。巨大な山塊の頂を覆う白が蒼穹(そうきゅう)に映え、最も絵になる。数ある富士の絶景ポイントの中、近年話題の日本平(にほんだいら)夢テラスを訪れた。
国の名勝、日本平は標高307㍍の有度山(うどやま)を中心とした丘陵地で、昔から富士山を眺望する景勝地だった。2018年11月に新たにオープンした日本平夢テラスは、高さ約12.7㍍の3階建てのガラス張りの建物と、1周約200㍍の展望回廊、四季折々の花が咲く庭園からなる。開業1年で100万人を超える来場者数を記録したというから、人気のほどがうかがえる。
冠雪の富士山と360度の眺望に寒さを忘れる
久能山(くのうざん)東照宮など日本平の歴史と文化をパネル展示(タッチパネルやプロジェクションマッピングは休止中)した1階から階段を上り、2階のラウンジを経て3階に出ると展望フロアだ。
屋内からガラス越しにも眺められるが、フロアを一周する屋外デッキからは木々や建物などの遮蔽(しゃへい)物がなく、北東方向に50㌔先の富士山の偉容を眺められる。「昨日まで山頂に雪はなかったんです」と日本平夢テラスのマネージャーである慶野明子さんと川島正子さんが口をそろえて言うように、取材した11月下旬、冠雪はうっすらで、山頂付近にたなびく雲に似た色をしている。それでもスカイブルーの空に稜線(りょうせん)がくっきりと浮かぶ姿は、雄大で優美だ。
富士の裾野を隠すように高根山や浜石岳、大丸(おおまる)山など500㍍~700㍍級の山並みが連なり、右側は南隣の愛鷹(あしたか)山に連なる山裾が一望できる。下方は空の青より濃い紺碧(こんぺき)の海と清水港のコンビナート、清水区の市街地がミニチュアのように広がっている。目を転じれば三保松原(みほのまつばら)も望める。寒さも忘れて見入ってしまった。
文/田辺英彦 写真/青谷 慶
住所:静岡県静岡市清水区草薙600-1
交通:東海道新幹線静岡駅から日本平ロープウェイ行きバス40分、日本平夢テラス入口下車徒歩5分(または東海道線東静岡駅から同バス25分)/東名高速清水ICから12㌔
TEL:054-340-1172
(出典「旅行読売」2021年2月号)
(ウェブ掲載 2021年3月25日)