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電池で走る新・ローカル線

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電池で走る新・ローカル線

龍門の滝の奥を走る烏山線(写真/ピクスタ)

シニア層はグリーン車もおすすめ

青春18きっぷというと、いかにして遠くまで〝乗り鉄〟をするかを競うゲームのような趣がある。しかし、シニアと呼ばれる歳になると長時間普通列車に揺られるのは体力的に厳しい。

それなら、18きっぷとは縁切りなのか? というと、そうでもない。関東一円には2階建てグリーン車を連結した普通列車が数多く走っているので、上手く利用すれば優雅でお得な旅をすることができる。

仮に片道51㌔以上の目的地へ週末向かう場合、18きっぷ1日分(2410円)に往復グリーン券1600円(モバイルSuicaまたは事前購入の場合)を足すと4010円だ。東京駅から片道100㌔程度の場所なら正規運賃だけで往復5000円を超えるので、グリーン車を利用してもお得感満載だ。

グリーン車は眺めのいい2階建て車両
グリーン車は眺めのいい2階建て車両

蓄電池車両に乗って

今回は東京駅から宇都宮駅までグリーン車で往復し、非電化区間を走るローカルな烏山線で〝電車〟旅をしたい。

東京駅を8時過ぎに出る列車で宇都宮駅へ。2時間近いグリーン車の旅は快適だ。このご時世、「密」を避けることができるのもよい。朝食は乗車前に、駅の売店で軽食を買って車内で食べるのもよい。

宇都宮駅からは、いよいよ烏山線に乗る。「アキュム」と呼ばれる電車は、宇都宮駅を発車する時は普通の電車と何ら変わらない。しかし東北線区間を10分少々走り宝積寺駅に到着した時、2分ほど停車するので、ちょっとだけホームに降りて屋根のパンタグラフに注目したい。パシャッと音を立てて折り畳まれるのだ。この先、烏山線は非電化路線。つまり架線がない。ここからは蓄電池で動く車両となるのである。

快走するアキュム
快走するアキュム

終着駅で急速充電

以前はディーゼルカーが走っていたが、今はディーゼルエンジンの騒音も振動もなく、田園風景を見ながら軽やかに走っていく。2両編成の連結部にはモニター画面があり、その時の電気の流れが図示されている。烏山線内では、蓄電池から電気の供給を受けていることが分かる。

架線のない烏山線だが、終点の烏山駅ホームの先端部分、車両1両分ほどの区間は架線がある。到着するとアキュムはパンタグラフを上げ、帰路に備えて急速充電を開始する。この光景を見る目的で訪れる旅行者もいる。

烏山駅で充電中のアキュム
烏山駅で充電中のアキュム

想い出のDD51形の牽引

烏山といえば、毎年7月に行われる「山あげ祭」が有名だ。日本有数の移動式野外劇で、国の重要無形民俗文化財に指定されている。祭りを祝って、上野駅から臨時快速列車が烏山駅まで直通運転されたこともあった。DD51形による牽引で、写真を撮りに出かけたことを思い出す。

DD51形が牽引する「烏山山あげ祭号」(撮影/2007年)
DD51形が牽引する「烏山山あげ祭号」(撮影/2007年)

名瀑や酒蔵へ途中下車

今回は日帰り旅のため、烏山駅では17分間の滞在で折り返し、一つ隣の滝駅で下車。烏山線と滝を同じ構図に収められる撮影スポットとして人気の龍門の滝付近を散策する。 

滝駅から徒歩15分ほどの所にある島崎酒造も興味深い。酒を洞窟で貯蔵することで知られ、洞窟内の見学もできる。土産には上品な甘い味わいの大吟醸「東力士」がおすすめ。帰宅まで待てないのなら、帰りの車中で〝呑み鉄〟しようか。車旅ではないので、気楽に飲めるのも鉄道旅ならではだ。

島崎酒造の洞窟酒蔵
島崎酒造の洞窟酒蔵
大吟醸「東力士」
大吟醸「東力士」

駅ごとに七福神⁉

再び滝駅からアキュムに乗車する。烏山線には縁起の良い駅名があることから、各駅に七福神のキャラクターを割り振っているのも特徴だ。その一つ、大黒天の大金駅では駅舎脇にある大金神社にお参りした。大金が貯まるというご利益があるのだろうか?

宝積寺駅でも途中下車。建築家・隈研吾氏がデザインした、木材で幾何学模様を表現した橋上駅舎内の天井には驚く。

宇都宮駅へ戻り、復路もまた普通列車のグリーン車を利用。〝呑み鉄〟の続きを楽しみながら、快適にお得な旅を締めくくる。

(文/野田 隆)

龍門の滝への玄関口である滝駅は、大蛇が住む伝説にちなみ龍に乗る弁財天の看板
龍門の滝への玄関口である滝駅は、大蛇が住む伝説にちなみ龍に乗る弁財天の看板

(出典「旅行読売」2021年7月号)

(ウェブ掲載2021年7月12日)




Writer

野田 隆 さん

旅行作家。1952年、名古屋市生まれ。早稲田大学大学院修了。31年間都立高校教諭を勤めた後、2010年に早期退職、以後、旅行作家としてヨーロッパや国内の鉄道紀行を執筆。日本旅行作家協会理事。著書に『シニア鉄道旅のすすめ』(平凡社新書)、『テツ道のすゝめ』(中日新聞社)、『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』(光文社知恵の森文庫)など。

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