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【由利高原鉄道】直筆の鉄印におもてなしの心を込めて

場所
【由利高原鉄道】直筆の鉄印におもてなしの心を込めて

矢島駅売店のまつ子さん

「お茶を入れたから飲んでいきなさいよ~」 

2019年秋に由利高原鉄道の終着矢島駅を訪れたとき、明るく気さくな声が聞こえて来た。声の主は、矢島駅構内の売店「まつ子の部屋」で働く〝まつ子さん〟(本名・佐藤まつ子さん)であった。

もともと青森県大間出身のまつ子さんは、若くして夫を事故で亡くし、小学生と中学生の二人の娘を連れて、夫の実家のあった矢島町(現在は由利本荘市に合併)に移り住んできた。

1990年、子どもの世話から少し手が離れてきた頃、働いてみないかと声をかけられたのが、当時求人をしていた旧矢島駅舎内にあった旅行代理店兼売店で、採用試験にも合格した。これが由利高原鉄道と繋がるきっかけになったという。その後、2000年に矢島駅が現在の駅舎に建て替えられた後も旅行代理店は残ったが、1年ほどで撤退してしまうことになる。

灯りの消えた駅舎を見るのは忍びないと思ったまつ子さんは、由利高原鉄道に「電気をつけさせてください」と直談判。2002年以降、売店スペースを借り受けて営業を続けている。

「私、ボールペンが好きじゃないの……」

まつ子さんは昔から書道の心得があり、よく見渡すと店内のポップなどもすべて手書き毛筆で作っている。聞けば「毎日自分で墨もすっている」という。お見送りをしてくれる時に手に持つプラカードもそうした手作りのものだ。

由利高原鉄道から、まつ子さん直筆の鉄印を書いてもらえないかとお願いされた際も二つ返事で承諾。通常の鉄印は300円だがまつ子さん直筆の場合は500円。「私が書くだけで200円余計に頂戴するのは申し訳ない」と、売店で使える200円の商品券付きで記帳している。

「来ていただいたお客様に喜んで帰ってもらいたい」と笑顔で話すまつ子さん。温かなおもてなしの心が、人の心を惹きつけてやまないのだろう。

乗客に気さくに声をかけ桜茶を振る舞う。時に話は恋愛相談に及ぶこともあるとか
乗客に気さくに声をかけ桜茶を振る舞う。時に話は恋愛相談に及ぶこともあるとか

<問い合わせ>

秋田矢島・鳥海観光案内所

TEL:0184-56-2236

 

(出典「旅行読売」2021年8月号)

(ウェブ掲載2021年9月7日)




 

 

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Writer

越信行 さん

神奈川県生まれ。全国の駅を撮り歩く駅旅写真家。月刊旅行読売で「駅舎のある風景」を連載中。著書に「生涯一度は行きたい春夏秋冬の絶景駅100選」(山と溪谷社)など

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