至福の貸切露天 ひなたみ荘【四万温泉】
「鶏鳴の湯」は温かみを感じる洗い出し加工。かけ流しの源泉を注ぐ
ひょうたん型の湯船で四万の霊泉を心ゆくまで
大浴場はない。貸切風呂が主役である。最近、そんな宿が増えている。
群馬県・四万温泉の最奥、日向見(ひなたみ)地区にある「ひなたみ館」の4代目・町田憲昭さんが先代の急逝(きゅうせい)によって宿を継いだのは27歳のとき。その3年後、思い描く宿づくりに着手した。今から10年前のことである。
「一般的な温泉旅館をイメージすると想像と異なるかもしれません。だから、『大浴場はありません』と先にお伝えしています」と町田さん。「コンセプトは〝良質な普段〞。豪華過ぎず、チープ過ぎず、日々の喧騒(けんそう)から離れて過ごせる宿を目指しています」
1905年の創業。梁(はり)や柱など駆体を生かしつつ、モダンな雰囲気に。ロビーや廊下、客室の床はよく磨き込まれたホワイトオークの無垢(むく)材で、明るく開放的な空間だ。階段の柵や手すりはマットなブラック、家具類はシンプルでナチュラルなものをセレクトした。
客室は14室から10室に減らしたから、1部屋が広めの間取り。一番狭い客室でも30平方㍍、半露天風呂付き客室は64平方㍍の和洋室、76平方㍍のメゾネットタイプもある。出迎えるスタッフはシンプルなシャツとズボン、エプロンという出でたちである。
上毛かるたにもうたわれた〝世のちり払う温泉〞の実力
赤々と燃える薪ま き ストーブの前で革ソファに腰を下ろす。ストーブはデンマーク王室御用達(ごようたし)。そう聞くだけでよりリラックスできそう。
客室でチェックインし、旅装を解いて貸切風呂へと向かう。三つある風呂はすべて貸し切りで、そのうち一つは眼下に日向見川を見下ろす露天風呂、ほか二つは内風呂である。階段を下りる前に空室かどうか点灯パネルで確認すると、どこも空いていた。
ひょうたん型の露天風呂「鶏鳴(けいめい)の湯」にどっぷり、あごまでつかる。古くから「四万の病を癒やす霊泉」といわれ、群馬の郷土かるた「上毛(じょうもう)かるた」には「世のちり払う四万温泉」とうたわれる。
泉質はナトリウム・カルシウム―塩化物・硫酸塩泉。3 本の源泉のうち1 本は四万温泉発祥の「御夢想(ごむそう)の湯」と同じ源泉だ。お湯は澄んでいて、肌に軟らかい。乾燥しやすい冬でもガサガサしないのは美肌湯の底力だろうか。
脱衣所にはアメニティーがひと通りそろい、好きな時間に利用できる(11時〜15時は清掃)から、大浴場がなくとも不便はない。夕食の場所は客室か食事処を選べる。料理は上州和牛や赤城地鶏など地場の食材を使った創作和食だ。食器一つにもこだわりを感じる。テーブルや食器、館内の花をスタイリングするのは4代目の奥様。元インテリアスタイリストだという。
宿で使用している天然木の漆器、コーヒー豆などは販売もする。日常にも上質を取り入れてみたくなる。
文/野添ちかこ 写真/三川ゆき江
住所:中之条町四万4367-8
交通:吾妻線中之条駅からバス40分、四万温泉下車、送迎10分(要予約)/関越道渋川伊香保ICから40㌔
問い合わせ:0279-64-2021
料金:平日1万8150円~、休前日2万1150円~(日帰り入浴不可)※掲載時の料金。公式ホームページを要確認
客室:10
貸切風呂:貸露天風呂1、家族風呂2(1回40分無料 ※何度でも入浴可。料金・時間は掲載時の情報)
(出典「旅行読売」2022年2月号)
(WEB掲載 2022年3月23日)