器のふるさとへ 小鹿焼(おんたやき)
せせらぎと唐臼(からうす)の音が響く 山里に伝わる伝統の技
小鹿田焼が作られるのは日田市北部の山深い地。瓦屋根の日本家屋と登り窯が川沿いに立つ小さな集落は、まさに隠れ里の雰囲気だ。川の流れを利用して陶土を砕く唐臼(からうす)が「キィ……コン、コン」と音を響かせ、それが時の流れを緩めているようにすら感じられる。
近隣の陶芸は16世紀末、後に初代福岡藩主となる黒田長政が豊臣秀吉とともに朝鮮出兵をした際に陶工を連れ帰ったことが始まりとされ、この地にも300年以上前に窯場が築かれたといわれる。見応えのある大皿や使いやすい大きさの平皿、取り皿、コーヒーカップ、鉢なども多く作られている。
装飾は絵付ではなく、ロクロを回しながら表面を削る「飛鉋(とびかんな)」や刷毛の跡をつける「刷毛目(はけめ)」、釉薬(ゆうやく)を自然に流す「流し掛け」などの技法が用いられる。その作業風景に出合うことがあれば、一瞬で美しい模様が浮かぶ様子に息をのむことだろう。日々の鍛錬による技から生まれる装飾は眺めても飽きず、食卓を彩ってくれる。
現在は9軒の窯元が作陶を続けており、一子相伝によって伝統の仕事が今に伝えられている。
【データ】
交通:大分道日田ICから県道107号経由約14㌔
問い合わせ:日田市観光協会 TEL:0973-22-2036
(旅行読売2022年1月号掲載)
(WEB掲載:2022年3月26日)