器のふるさとへ 有田焼
「食器は料理の着物」とは、多才な芸術家で美食家として知られる北大路魯山人(きたおうじ・ろさんじん)の言葉だ。だが、この名言を引くまでもなく、料理を彩る器は食事にとって欠くべからざる存在だろう。「おいしさ」を演出し、食卓を美しく調える器たち。日本各地の焼き物の里を訪ねてみれば、その土地ならではの焼き物があり、それらの豊かな表情に気付く。手仕事の技があふれる「器のふるさと」を訪ねた。
白い地肌に描く多彩な技法 400年の歴史を誇る磁器
佐賀県西部の内陸部にある有田町。山に囲まれた小さなこのまちが、日本の磁器の発祥地だ。今から約400年前、磁器の原料となる陶石が、日本で初めてここで発見されたのだ。
磁器は、陶石を細かく砕いた粉石で作った粘土を成形し、高温で焼き締めて作られる。ゆえに硬く、叩けば金属のような澄んだ音がする。日本の磁器のパイオニアである有田焼は、地肌の白さが特徴。当初は中国・景徳鎮(けいとくちん)産の代用品として輸出されたが、初代柿右衛門(かきえもん)によって赤絵が考案された後、「柿右衛門様式」がブレイク。鮮やかな色合いと、余白の多い、まるで絵画のようなデザインは、17世紀~18世紀に欧州の王侯貴族たちをとりこにしたという。以来、有田焼は、国内外で食器や美術工芸品として愛され続けてきた。そんな有田焼の現在の製作現場を訪ねた。
親子が営む窯元で絵付けを見学
「工房 禅」は、横田勝郎さん・翔太郎さんの親子が営む窯元。町内には今も、工場を持つ企業から、こちらのような家族経営まで約100 軒の窯元があるという。
ひとことで有田焼といっても、作風は窯元によってさまざま。横田さんは「有田焼の基本は白い生地に青の絵付(えつけ)。でも、柿右衛門さんに代表される赤絵や、白磁、青磁など、いろんな技法や表現方法があるんです」と教えてくれた。
そのような中で横田さんが目指しているのは、「子どもの頃に見た有田焼」だという。「昔は川で遊んでいると、古い陶片がたくさん落ちていました。あの雰囲気を再現したいんです。昔の有田焼はきれいなだけじゃなく、味があるんですよね」。確かに横田さんの作品を見ると、地肌が真っ白ではなく、ほのかにグレー。現在では大半の窯元が熊本県天草の陶石を材料にしているそうだが、横田さんはこの温かい色合いを出すために、あえて今も町内で採れる陶石を使い続けている。
また有田では昔から、土を作る職人、ろくろの職人、絵付をする職人など、分業制が発達してきたが、横田さんはあえて全工程を自分で行ってきた。「そうやって手作りして初めて出る、味があるんですよ」と横田さん。
そんな父の背中を見て育った翔太郎さんは35歳。関東で会社員をしていたが、29歳でこの道を選んだ。「有田焼は世界に誇れるブランド。その伝統を生かしつつも、自分の色を出していければ」と新たな進化に挑んでいる。
焼き物にまつわる観光スポット巡り
磁器と共に歩んできた有田町は、焼き物にまつわる観光スポットが豊富で、まち歩きも楽しい。有田ポーセリンパークには、有田焼の輸出で交流が生まれたドイツ・ドレスデンの宮殿や庭園が再現されている。工房では、ろくろや絵付の体験ができるので、陶工気分も味わえる。一方、ギャラリー有田は、「ごどうふ」などのご当地グルメを楽しめるカフェレストラン。2500客もの有田焼のカップから好きな器を選んでお茶が楽しめるサービスが人気だ。
有田の町並みを見下ろす丘の上にある陶山(とうざん)神社にも立ち寄った。「やきものの神様」として親しまれている神社だが、鳥居や狛犬が有田焼なのには驚かされた。
江戸時代から磁器生産の中心地だった内山地区には、今も木造漆喰の古い町並みが残る。表通りには器の店が軒を並べ、裏通りにはトンバイ塀。トンバイとは、窯に使われていた古いレンガのことだ。焼き物のまちならではの風景を愛 でながら散策を楽しんだ。
最初に陶石が発見された泉山磁石場も足を運びたいスポットだ。250万年前の火山活動で生まれた陶石を、400年かけて掘り続けた露天掘りの跡。歴史のロマンと、有田焼にかけたこの町の人々の情熱を実感できた。
文/茂島信一 写真/森田公司
【データ】
交通:博多駅から鹿児島線・長崎線・佐世保線特急1時間30分の有田駅下車
問い合わせ:0955-43-2121(有田観光協会)
工房 禅 9時~17時/不定休/訪問する際は事前に電話 TEL:0955-43-3714
有田ポーセリンパーク 9時~17時/作陶体験は平日10時~15時。土・日曜、祝日は10時~16時/無休/TEL:0955-41-0030
ギャラリー有田 11時~17時/不定休/TEL:0955-42-2952
陶山神社 参拝自由/TEL:0955-42-3310
泉山磁石場 見学自由/TEL:0955-46-2500(有田町商工観光課)
(出典 「旅行読売」2022年1月号)
(WEB掲載 2022年2月26日)