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人気エッセイスト・宮田珠己さんが見つけた東京の歩き方(2)

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人気エッセイスト・宮田珠己さんが見つけた東京の歩き方(2)

街なかにそびえる鉄塔。高圧線はどこへ続いているのか(写真:宮田珠己)


鉄塔、遊具、配管なども街歩きのテーマに

宮田さんの自分だけの街歩き(1)から続く

ほかに人がどんなテーマで歩いているか列挙してみよう。

高圧線や鉄塔。読者のなかにも好きな人は結構いるのではなかろうか。街なかに立ち上がる鉄塔はたしかに気になる存在だ。いろんな形があるから、その違いを探るのも面白そうだし、近所の上空を通っている高圧線がどこに続いているのか、たどってみたくなる気持ちはよくわかる。

公園遊具も知る人ぞ知る人気のアイテムだ。タコやキリンなどの動物を模したデザインがかわいく、種類も豊富で、専門知識がなくてもすぐに楽しめる。中には鬼やロケットなどユニークな遊具もあるというから見てみたい。東京では新宿区にある、象が2段になったすべり台が有名だそうだ。どこにどんな公園遊具があるかは自分の足で探すしかないだけに、面白いものを見つけたときの喜びはひとしおだろう。

奇抜なところでは、建物の外部に剥(む)きだしになってる配管に着目している人がいる。エアコンや電気やガスの配管、雨どいなどの配列が、ときに整然と幾何学(きかがく)模様を描いていたりすると、そこに美を感じるらしいのだ。理解に苦しむ人もいるだろうが、意外に配管の並びは気になっている人が多いようだ。

私も歩きながらついつい妖怪を探すようになってしまった(写真:宮田珠己)

人工物だけが街歩きのテーマになるわけではない。

私の知人で路上園芸学会を立ち上げた村田あやこさんは、路上の植物を愛でながら街を歩き続けている。学会といっても個人の活動なのだが、住宅の前に置かれたプランターや、歩道の植え込み、道路のアスファルトの間からはみ出た雑草まで、植物なら何でも愛でるのである。だから散歩していてもなかなか前に進まない。

壁に蔦(つた)が這ってできた模様を「植物壁画」と名付け、写真を撮って集めたり、植木鉢からはみ出して地面に直接張った根を鑑賞したり、成長するうちにフェンスを飲み込んで一体化してしまった樹(き)や、育ちすぎて怪物のようになった雑草などを「植物のふりした妖怪」と名付けて愛でているのも楽しい。彼女の影響で、私も歩きながらついつい妖怪を探すようになってしまった。

 

街歩きのテーマは着眼点がミソ

このように、街歩きのテーマはいくらでも見つけることができる。要は着眼点なのである。坂や階段みたいなどこにでもある風景でも、それに着目すれば、きっといろんな発見がある。何に目をつけるかは自分次第だから、誰でもお仕着せでない自分だけの街歩きができるし、ネット上で発信すれば同好の士に会えるかもしれない。

何より遠くに行かなくて済むのがいい。観光スポットに出かけなくても、Y字路も公園遊具も植物も自宅周辺で見つけられる。自粛、自粛で出不精になってしまったわれわれにぴったりだ。

テーマが思いつかない人は、まずは自分の住む街の地形に興味を持ってみるのがおすすめである。平坦に思える東京にも谷や崖など複雑な地形があり、あらためて観察しながら歩けば、ふしぎな風景に出会える可能性がある。気がつけば、何気ない街の景色が自分だけの絶景になっているかもしれない。


宮田珠己(みやたたまき)プロフィール

作家・エッセイスト。旅とレジャーを中心に活動を続ける。主な著書は『いい感じの石ころを拾いに』(中公文庫)、『東京近郊スペクタクルさんぽ』(新潮社)、『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』(大福書林)など。


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