復旧した熊本城天守閣を再訪
二の丸広場から見る天守閣と宇土櫓
粛々と進む復旧工事を見るために
約2年ぶりに熊本城を再訪した。前回訪れたのは2020年1月、今回同様に桜の時期を間近に控えた「美しき城へ」特集の取材で、2016年の熊本地震の被災から一部復旧し、天守閣の特別公開が始まったタイミングの熊本城を巻頭で紹介した。広場から、復活した大天守・小天守の堂々たる姿を見上げた。この時はまだ中には入れなかったが、工事関係者や市民の思いを知るほどに感動が込み上げてきた。
地震によって熊本城の建造物は重要文化財13棟、復元・再建20棟のすべてが被災し、石垣は全体の3割に当たる約2万3600平方メートルが被害を受けた。2037年度までかかる復旧の長い道のりが始まるにあたり、優先したのが天守閣の復旧だった。茶臼山全体を要塞化した城の最奥、一段高い所にそびえる天守閣は、大通りや市電、市役所など各所から眺められる街のシンボルで、存在そのものが街の歴史だ。市民の憩いの場、復興の象徴として復旧が急がれた。
2020年春には、天守閣南側に特別見学通路が開通するはずだったが、記事を載せた月刊誌発売後の4月7日に緊急事態宣言が発出されて開通が延期され、花見どころではなくなってしまった。未知のウイルスに振り回されながらも、翌年には天守閣が完全復旧し、新しい館内展示も見られるようになった。熊本城を再訪したのは、そんな経緯があり、その後の姿を見たかったからだ。
5年ぶりに再開された天守閣内部の公開
飲食店が集まる城彩苑(じょうさいえん)から階段を上がり、2年前はなかった南口券売所から再び階段を上がって特別見学通路を歩く。地上約6メートルの高さから眺める「二様(によう)の石垣」や天守閣、崩れたまま、あるいははらみを帯びたままの石垣は、今しか見られないともいえる。
本丸御殿を抜けて天守閣前の広場に出ると、記念撮影する旅行者や修学旅行の学生たちがにぎやかだ。前回と異なり、クレーン車や立ち入り防止柵はない。ここから小天守の入り口へスロープを上がる。昨年6月、震災から約5年ぶりに天守閣内部の公開が再開された。「以前の熊本博物館分館を廃止し、天守の歴史に特化した展示にリニューアルしました。大型模型を中心に、映像やレプリカ、壁面グラフィックなどで、天守の造りや明治期の焼失、昭和期の再建、地震からの復旧などの歴史を解説しています」と熊本城総合事務所の大竹山千春さんは話す。
制震ダンパーが設けられている地階から階段を上がると、加藤時代、細川時代、近代、現代と階を上るごとに展示物の時代が移り、最上階の6階展望フロアからは、復旧が進む熊本城を360度見渡せる。第3の天守といわれる現存多層櫓の宇土(うと)櫓と二の丸広場の芝生、さらにそれを縁取る街並みと山並みを眺めた。この風景を見るためだけでも来る価値がある。
「今年後半から数年がかりの宇土櫓の解体保存工事が始まります。被害を受けた宇土櫓の状況を見られるのもあと少し。馬具櫓や戌亥(いぬい)櫓も解体保存工事が進行中です。来るたびに姿を変える熊本城を、ぜひ見に来てください」(大竹山さん)
最後に二の丸広場を歩いた。ここから見る石垣越しの天守閣と宇土櫓が好きだ。現代的な人工物がほぼ視界に入らず、築城時にタイムスリップしたような豪壮な姿が見飽きない。それを背景に遊ぶ子どもたちの姿は絵画のようだ。この風景を見に、またいつか訪れたくなるのだろう。
文・写真/福﨑圭介
住所:熊本県熊本市中央区本丸1-1
交通:熊本駅前停留場から熊本市電A系統17分、熊本城・市役所前停留場下車、徒歩10分
TEL:096-223-5011(熊本城運営センター)
(出典:「旅行読売」2022年4月号)
(WEB掲載:2022年5月15日)