六角精児「僕の青春18きっぷの旅」(1)
多くの鉄道番組に出演し鉄道ファンとして知られ、「青春18きっぷのおかげで、ほぼすべての路線を制覇できた」と話す俳優・六角精児(ろっかく せいじ)さんに、思い出を語っていただいた。
「乗り鉄」×「呑み鉄」×「旅打ち」
実は本格的に「乗り鉄」になったのは30代半ばからと遅いのです。若い時にギャンブルにはまって生活が乱れ、「このままではいけない、別の趣味を持とう」という危機感からでした(笑)。鉄道路線を制覇するために「青春18きっぷ」を使って乗りまくりました。
最近はコロナ禍で旅もままなりませんが、5年くらい前、「青春18きっぷ」を使って友人と2人で東京から名古屋まで行きました。昼頃、都内で用事が終わって「さて、どうするか」と考えたとき、久しく紀勢線に乗っていないから乗りに行こうと。結局、その日は名古屋で朝まで麻雀(マージャン)を打って、関西本線の始発に乗って亀山へ行き、紀勢線に乗り換えました。酒を呑みながら車窓風景を眺め、眠くなったら寝る。僕の旅はいつもこんな感じ。忙しい日常から抜け出して、リラックスするのが旅ですから。
尾鷲(おわせ)辺りから海岸線に沿って紀伊半島を南下すると、複雑な入り江や小さな漁港が続き、素晴らしい車窓風景に徹夜明けの眠気も吹き飛びました。最南端の串本(くしもと)で下車、港町なら魚が旨(うま)かろうと地元の店に入りましたが……。狙いが外れるのもいい思い出です(笑)
あらかじめ計画は立てないが、翌日どこまで行けるかは、時刻表を見て決めておきます。宿はいつも行き当たりばったりなので、普段は午後4時頃には宿泊地に着いて観光案内所などで宿を紹介してもらいます。朝早くから乗るのは、そのためでもあります。
和歌山市内に宿を取り、夜の街へ。「呑み鉄」はお酒を呑むだけでなく、酒場で触れ合う地元の人との出会いが楽しい。小さな街のスナックで女将が語る話がその街の神髄(しんずい)をついていたりします。
翌日は和歌山港から南海フェリーで四国へ渡り、鳴門ボートレース場へ(笑)。やはり「旅打ち」も楽しみの一つです。2、3レース観戦した後、徳島線経由で丸亀へ向かいました。ボートレース丸亀はナイターをやってたんですな。
最終日は坂出から普通運賃で瀬戸大橋を渡って児島へ。目的はボートレース児島。結果的に「青春18きっぷ」を使って、瀬戸内のボートレース場を制覇したわけです(笑)
聞き手/田辺英彦
六角精児(ろっかく せいじ)
1962年、兵庫県生まれ。劇団「善人会議」(現・扉座)旗揚げメンバー。数々の舞台、ドラマ、映画でバイプレイヤーとして活躍中。2015年春からNHK BSプレミアムの紀行番組「六角精児の呑み鉄本線・日本旅」に出演、日本各地のローカル線を巡っている。「六角精児バンド」で音楽活動を行うほか、今年4月には往年のフォーク/ロックの隠れた名曲をカバーした初のソロアルバム「人は人を救えない」をリリースした。
(出典:「旅行読売」2022年7月号)
(Web掲載:2022年7月21日)