首都圏外郭放水路の圧倒的な巨大水槽と立坑へ
調圧水槽内。スマートフォンのアプリを使うと、水が貯まる様子を疑似体験できる
水害から街を守る世界最大級の地下放水路を見学
記憶にも新しい2019年の東日本台風(台風19号)。筆者は埼玉県東部を流れ都内を通過する綾瀬川沿いに住むため、いつ氾濫(はんらん)するかと肝を冷やしたものだ。この時、人知れず大活躍し、一躍脚光を浴びたのが埼玉県春日部市にある「首都圏外郭放水路」だ。施設は一般見学が可能で、今回は4コースある中から立坑(たてこう)体験コース(3000円)に参加した。なお、ほかに地下神殿コース、ポンプ堪能コース、インペラ探検コースがあり、すべて事前予約性で有料となっている。
まずは排水機場にある龍Q(リュウキュウ)館で概要の説明を聞く。それによると、春日部市を含む、中川・綾瀬川流域は利根川、江戸川、荒川に囲まれ、水が貯(た)まりやすい皿のような地形をしているとのこと。加えて河川の勾配が緩いため水が流れにくく、大雨が降ると水位が上昇。これまで何度も浸水被害が発生したという。そこで1980年に国および埼玉県、茨城県、東京都などが協力して〝水害に強い街づくり〟がスタート。着工から13年の歳月をかけて、2006年に首都圏外郭放水路が完成した。
施設の仕組みは、増水した中小河川の水を立坑に取り込み、地下トンネルで調圧水槽に集め、排水機場にある巨大排水ポンプで江戸川に排水する。地下トンネルの長さは6.3㌔。立坑は5本あり、第1立坑を除く4本の立坑から大落古利根川(おおおとしふるとねがわ)や中川など5本の川から増水した水を取り込んでいる。
立坑体験コースで深さ70㍍の立坑をのぞく
続いて地下の調圧水槽へ。116段の階段を1段ずつ下る。この日の最高気温は32度。地下は14度なので20度近い温度差があり、白い靄(もや)がかかっていた。サッカーグラウンド2面分の広さに59本の柱が整然と並ぶ光景は、まるで地下神殿。柱の重さは1本500㌧もあり、地下水の揚力を抑える重しの役目も担っている。
全施設の貯水量は池袋のサンシャインビルの容量1杯分に相当する約67万立方㍍。一方、排水は巨大排水ポンプ4台で行う。4台同時に稼働させるとおよそ小学校の25㍍プール1杯分の水がわずか1秒で排水できるという。施設は年平均7回ほど稼働し、東日本台風では東京ドーム約10杯分の水を排水したそうだ。稼働後は泥が貯まるため、見学エリアは毎回人力で、そのほかの場所は数年に1回ホイルローダーで回収し、再利用するために備蓄している。
最後は調圧水槽につながる第1立坑を見学。のぞき込むと足の裏がムズムズとする深さ約70㍍の円筒で、下部で地下トンネルがつながっている。水は下からせり上がり、調圧水槽に流れていく。
立坑の階段を昇降したり、作業通路を一周したりして、その大きさを体感すると「スペースシャトルや自由の女神、東京ディズニーランドのシンデレラ城も、この立坑内にすっぽり収まります」という説明にも納得だ。
これだけの施設を完成させた日本の土木技術の高さを改めて知り、そっと心の中で拍手を送った。
文・写真/内田 晃
【大宮・春日部発着】<旅して!埼玉割>潜入!首都圏外郭放水路見学ツアー(日帰り)
大人気施設へ8月20日(土)限定!旅行代金7,980円-旅して!埼玉割3,990円=お支払い実額3,990円/さらに地域観光クーポン2,000円付き。お陰様で8月20日は完売のため、8月27日(土)を追加設定しました!早い者勝ちです。
住所:埼玉県春日部市上金崎720
交通:東武野田線南桜井駅からタクシー7分/東北道岩槻ICから17㌔または常磐道柏ICから20㌔
TEL:048-747-0281(事務局、見学受付)
日時:毎日10時~、11時~、13時~、14時~、15時~(洪水時・施設点検日は中止。コースで開催日・時間が異なる)
料金:地下神殿コース1000円、ポンプ堪能コース2500円、立坑体験コース3000円、インペラ探検コース4000円 ※日時、料金は掲載時。最新のデータはホームページなどでご確認ください。
受付:見学会参加希望日の1か月前から前日まで電話かインターネットで予約
人数:1人~(未就学児不可。中学生以下は大人の同伴が必要。調圧水槽の見学は階段約100段を自力で歩ける人のみ可。第1立坑は高所が苦手な人は要検討。インペラ探検は深さ50㌢程度の水の中に入れる人のみ可)
(出典:「旅行読売」2022年9月号)
(Web掲載:2022年7月25日)