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歩く旅 深谷(埼玉・深谷市)

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歩く旅 深谷(埼玉・深谷市)

国家意識を特色とする水戸学に精通し、渋沢栄一に大きな影響を与えた尾高惇忠の生家

廃線跡と「論語の里」 渋沢栄一の故郷を訪ねる

徒歩時間▽約2時間30分(約9・5㌔)

高低差▽ほぼ平坦

 

NHKの大河ドラマ「青天を衝け」の主人公として脚光を浴び、2024年度に発行される新1万円札の「顔」となる渋沢栄一。「近代日本経済の父」ともいわれる栄一生誕の地・深谷を歩き、その足跡を訪ねる。

深谷駅に降り立つと、東京駅丸の内口に似ていることに驚く。深谷産のレンガが東京駅に使われた経緯から、現在の深谷駅舎になったという。旧丸ビル、日本銀行本店本館、迎賓館赤坂離宮など明治以降の近代建築用に、今の深谷市北部の日本煉瓦(れんが) 製造株式会社上敷免(じょうしきめ ん)工場で大量に生産された。

工場と深谷駅との間約4㌔にわたり専用の線路が敷かれ、1975 年まで貨物が走り、各地に運ばれた。廃線跡は現在、歩行者・自転車専用道の「あかね通り」になっている。駅からあかね通りを歩き、その日本煉瓦製造を目指す。

あかね通りはサクラ、ツバキ、サルスベリ、キンモクセイなどの高木やアセビ、アジサイ、イヌツゲなどの低木が植栽された緑道になっている。所々にベンチが置かれているのもありがたい。

現在の深谷駅舎は1996年に完工。「関東の駅百選」に選ばれている

福川を渡ると右手に公園があり、福川鉄橋が保存されている。この鉄橋は、イギリスの技師・ポーナルが設計したプレート・ガーダー(鋼板桁)橋で、日本に現存する最古のポーナル型プレート・ガーダー橋という貴重な遺構だ。深谷バイパスをくぐると視界が開け、右手前方に白っぽい1本の煙突が見える。そこが、日本煉瓦製造だ。手前で国の重要文化財の備前渠(びぜんき ょ)鉄橋を渡る。

「鉄橋がかかる備前渠用水路は貴重な農業用水路として、2020年12月に世界かんがい施設遺産に登録されたばかりです」と深谷市文化振興課の知久裕昭さん。

1888年、栄一によって設立された日本煉瓦製造は2006年、その歴史に幕を下ろした。現在は、旧煉瓦製造施設として、備
前渠鉄橋の他にも木造の旧事務所、レンガ建築の旧変電室、ホフマン輪窯(わがま)6号窯が国の重要文化財に指定され、保存されている(ホフマン輪窯は保存修理工事のため2024年頃まで非公開)。最盛期の1907年頃には6基の煉瓦窯が稼働していたという。

ブリッジパーク内にある福川鉄橋は、ほぼ建設当初の姿を今に伝えているという

川沿いを歩き「論語の里」へ

旧煉瓦製造施設から、利根川の支流・小山(こやま)川を渡り、方角を西に変え、土手沿いの道を歩く。畑が広がるのびやかな風景から、関東平野にいることを実感。空気が澄んでいれば、赤城山や榛名 連峰、日光連山などの山並みが望める。川風が気持ちよく、時折見かける水鳥たちの姿に心も和む。

大寄(おおよ り)公民館では、東京・世田谷から移築された誠之 堂(せいしどう)と清風亭の2棟を公開。国の重要文化財でレンガ造りの誠之堂は、1916年に栄一の喜寿を記念して造られた。1926年築の清風亭はわが国初期のコンクリート造りの建物だ。

渋沢栄 一の希望からイギリス風の農家をイ メージして造られた誠之堂

次に尾高惇忠(おだか・じゅんちゅう)生家へと向かう。世界遺産の群馬県・富岡製糸場の初代場長を務めた惇忠は、栄一のいとこにあたる。生家の1階と中庭を公開している(事前予約制)。

「2階には尊王攘夷 に共鳴した惇忠や栄一らが高崎城乗っ取りなどの計画を密談したと伝わる部屋が残されています」とボランティアガイドさん。若い頃の栄一は尾高家へ通い、惇忠から論語などを学んだことから、惇忠の生家と旧渋沢邸「中の家(なかんち)」までの周辺には栄一に関する史跡が多く、「論語の里」と称されるようになった。

旧渋沢邸「中の家」に向かう道筋には、栄一が揮毫(きごう)した扁額を掲げる鹿島神社や庚申塔、二十二夜講の古い石塔などが立っている。
 

旧渋沢邸「中の家」の主屋は建坪 85 坪、切妻造りの堂々とした建物

栄一の生い立ちや業績などをパネルなどで紹介している渋沢栄一記念館に立ち寄る。今、記念館では栄一のアンドロイドがジェスチャーを交えて行う、「道徳経済合一説」の講義が話題を呼んでいる(事前予約制)。

記念館から1㌔ほどで、栄一の生地に立つ旧渋沢邸「中の家」。主屋は、妹夫妻が1895年に建てたもの。東京から栄一が帰郷した際に寝泊まりした部屋が残る。現在、内部には立ち入れないが、庭に面した部屋から栄一のアンドロイドが迎えてくれた。

「論語の里循環バス」に乗り、深谷駅へと戻る。時間があれば、旧宿場町の深谷市内も散策したい。深谷大河ドラマ館では、栄一が生まれ育った家として創作されたセットを配置し、キャストのインタビューなどを放映している。

起点までの交通

上野駅から高崎線1時間15分の深谷駅下車
問い合わせ:048-575-0015(深谷市観光協会)

モデルコース

深谷駅
↓ 40分(2・5㌔)
福川鉄橋(ブリッジパーク)
↓ 1.5㌔(25分)
旧煉瓦製造施設
↓ 2.8㌔(45分)
誠之堂、清風亭(大寄公民館)
↓ 1㌔(15分)
尾高惇忠生家
↓ 0.4㌔(6分)
鹿島神社
↓ 0.3㌔(5分)
渋沢栄一記念館
↓ 1㌔(15分)
旧渋沢邸「中の家」
↓ 18分(バス利用)
深谷駅

(旅行読売2021年6月号掲載)

Writer

荒井浩幸 さん

1970年、埼玉県生まれ。旅に関することならジャンルを問わず、オールマイティにこなす、旅行ライター。食欲旺盛で、その「実力?」は特に味の店の連続取材の時にいかんなく発揮される! そして、昼はコーヒーを味わい、夜はお酒をたしなむ。旅とともに国内の民俗に関心をもち、研究もしている。

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