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あの映画にも登場したアートなごみ処理工場を見学

場所
> 広島市
あの映画にも登場したアートなごみ処理工場を見学

映画「ドライブ・マイ・カー」のロケも行われたガラス張りの見学通路・エコリアム

 

「美術館のように美しい」清掃工場

広島駅から海に向かって約6キロ。広島市環境局中工場は、倉庫や工場が立ち並ぶ埋立地の突端にある。「美術館のように美しい」と評される清掃工場で、2021年のカンヌ国際映画祭で脚本賞など4冠を受賞した映画「ドライブ・マイ・カー」のロケ地にもなり注目された。

建物の中は意外に静かで、清浄な空気が流れて涼やかだ。コンクリートの質感を生かした壁面やシンプルなデザインは、計算し尽くされたものだろう。2004年の竣工で、設計者は谷口吉生氏。広島平和記念公園などを設計した巨匠・丹下健三氏のもとで研鑽を積んだ著名な建築家だ。ニューヨーク近代美術館など国内外で多くの美術館を手掛けてきた谷口氏がコンセプトにしたのは「機能を率直に見せる建築」。迷惑施設とも捉えられ、機能を隠すように建設されてきた既存の清掃工場と逆をゆく発想だ。

まずはエレベーターで6階に上がり、見学者説明室で建設時の様子やごみ焼却の仕組みなどをビデオで学ぶ。その後、展望ブリッジを渡って焼却場へ。ブリッジ北側の大きな窓からは市街地と山並み、そして垂直に延びてゆく一本の道(吉島通り)が望めた。

地上7階地下1階建ての中工場。外観のデザインも斬新だ

SF映画に登場するような空間で「ごみ処理」の現場を見学

「この建物は原爆ドームと平和記念公園を結ぶ〝平和の軸線〟の延長線上に立っています。丹下先生が描いたその軸線を遮ることなく、工場内を道が突き抜けて海に続くように設計されているのです」と職員の惣本清隆さん。説明を聞きながら多様な設備をガラス越しに見学して歩く。排出ガスから有害物質を取り除く、排ガス処理設備の斬新な造形美が衝撃的だ。

続いて投入ステージに移動。ガラス窓からのぞくと約1.5トンのごみを積んだ収集車が次々と入ってきた。二重扉の先には収集車2800台分のごみが入る巨大なピットがあり、大量のごみが山のように積み上がっている。その上を動きながら、ごみをつかみ上げるクレーンも迫力たっぷりだ。

最新鋭の焼却装置を使っているため悪臭はない。清潔で芸術的な環境に身を置くと、色とりどりの廃棄物が現代アートのようにも見えてくる。さらに低圧蒸気復水器、蒸気タービン発電機、中央制御室などを巡る。どこもSF映画のように近未来的な景色だ。

展望ブリッジから見た3基のガス吸収塔。らせん状の階段が印象的

ガラスのトンネルを抜けて海へ

最後に向かったのは、2階部分に設けられた長さ140メートルの見学通路・エコリアム。工場内を陸から海へと貫くガラスのトンネルのような通路で、予約なしでも誰もが自由に立ち入れるエリアだ。

通路の横には排ガス処理設備がそびえ、ガス吸収塔がメタリックな光を放っている。彫刻作品を鑑賞するように見上げ、「平和の軸線」を意識して歩く。前方は海、後方は原爆ドームに続く一本の道。金属で満たされた無機質な設備と、人の歴史が溶け合ってゆくような不思議な空間に魅了された。

「平和の軸線」に沿って市街地と広島湾を結ぶエコリアム
最後は階段を下りて海辺の緑地帯へ。ここから見る夕景も美しい

広島市環境局中工場

 

住所:広島県広島市中区南吉島1-5-1

交通:山陽新幹線広島駅からバス30分、南吉島下車徒歩5分/山陽道広島ICから13キロ

TEL:082-249-8517

日時:月曜~金曜の9時〜12時、13時30分〜16時30分(年末年始と8月6日を除く)。2・4・6・8・10・12月の第3日曜の10時〜11時30分。エコリアムは9時〜16時30分

料金:無料

 

(出典:「旅行読売」2022年9月号)

(Web掲載:2022年9月14日)


Writer

北浦雅子 さん

和歌山の海辺生まれで、漁師の孫。海人族の血を引くためか旅好き。広告コピーやインタビューなど何でもやってきた野良ライターだが、「旅しか書かない」と開き直って旅行ライターを名乗る。紀伊半島の端っこ、業界の隅っこにひっそり生息しつつ、デザイナーと2人で出版レーベル「道音舎」を運営している。https://pub.michi-oto.com/

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