駅麺紀行 びんご矢野駅内食堂【備後矢野駅】
創業当時からの名物。うどんはそばに変更できる
ご縁にあふれる3色餅入りうどん
広島県南東部、矢野温泉や昭和30年代に誕生した民営ユースホステルへの玄関口として、団体客や若者でにぎわった福塩(ふくえん)線備後矢野(びんごやの)駅。車社会となった現在は1日6本と便数が減り、9時〜16時前は列車が通らない。
近くで縫製工場を営んでいた里武三(さとたけぞう)さんは、1983年の無人駅化に伴い工場で鉄道きっぷを委託販売していたが、翌年にこの駅舎を借り受け、そばとうどんを出す食堂をオープンした。
「かつては10人ほどの駅員さんがきびきびと働いていましたが、無人駅になってから建物が荒んでいくのが忍びなくて……」と里さんは昔を振り返る。
楽しいこと好きな里さんが、開業時に考案したのが福塩線をもじった「福縁阡(ふくえんせん)うどん」。この駅がいろいろな人との出会いの場になってほしいという願いが込められ、赤・白・緑の丸餅(もち)の円(縁)が重なるように載る。
地元の餅屋さんが杵(きぬ)でついたという餅を味わえば、モチッとしっかりした弾力。赤には梅、白にはキビ、緑には地元のヨモギが練り込まれ、かむほどにそれぞれの味わいが広がる。カツオ節などを配合した企業秘密の香り高いだしが利いた汁が絡まるのもたまらない。地元の製麺所で作るうどんはツルッとのど越しが良く、ボリュームがあるのに汁一滴まで完食した。
ご縁話を里さんに聞けば、「ユースホステルで知り合ったという京都の男性と香川の女性が、その後は毎回この駅で待ち合わせをして同ホステルへ行っていたんですよ。2人は結婚して、一時期この町に住んでいました」と笑顔で教えてくれた。
値段は開業時から変わらず555円(ご縁)。25円(二重のご縁)を追加すると駅名の焼き印入りのお守りが付き580円。290(ふくえん)の2倍の料金で、福縁も2倍になる……とご縁にこだわっている。
文・写真/児島奈美
【お品書き】(※2021年4月現在の料金)
えび天ぷらそば・うどん ◉550円
福縁阡そば・うどん ◉555円
お好み焼き ◉580円
肉「牛肉」そば・うどん ◉600円
自家製ケーキセット ◉500円