駅舎のある風景 松前駅【伊予鉄道郡中線】
漁師町の木造駅舎から古い伝説が残る神社へ
松山市駅からみかん色をした伊予鉄道の電車に乗って郡中(ぐんちゅう)港駅へ向かう郡中線の旅に出た。列車に乗っていると古くから残る木造駅舎が見られ、中でも岡田駅と松前(まさき)駅に目を引かれた。
その一つ、松前駅に降り立つ。古い“駅長”の看板が掲げられた駅舎は、板張り壁の造りで、年季の入ったこげ茶色の風貌は歴史が感じられる。建築年は不明だが、伊予鉄道の駅舎の中で一番古い可能性があるという。
駅近くの漁港の脇に瀧姫(たきひめ)神社という小さな祠(ほこら)があった。平安時代、伊予国へ流刑(るけい)となり松前の地で助けられ、その後、行商人として暮らしたと伝わるお瀧姫が祀(まつ)られている。松山地方で〝おたた〟さんと呼ばれる魚を売り歩く女性は、〝おたき〟がなまったものとされる。
古い駅舎が残る小さな漁師町では、心温まる言い伝えが今も守られていた。
文・写真/越 信行
伊予鉄道郡中線は前身の南予鉄道が1896年開業。松前駅も同年開業。松山市駅から17分
(出典:「旅行読売」2021年3月号)
(WEB掲載:2023年2月10日)