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【岩本薫さんが選ぶ 私の極上温泉】霧積温泉 湯元 金湯館

場所
> 安中市
【岩本薫さんが選ぶ 私の極上温泉】霧積温泉 湯元 金湯館

鮮度抜群の源泉があふれる湯船。これにつかればもう夢心地。思わず眠りそうになる

 

いわもと かおる

ひなびた温泉研究所ショチョー。昔ながらのひなびた温泉の魅力を今に伝える執筆活動にいそしむ。目指すは温泉界の吉田類。著書は『日本百ひな泉』『ヘンな名湯』『真夏の温泉』(以上、みらいパブリッシング)ほか

 

深山にポツンと立つ一軒宿。鮮やかな赤い橋が迎えてくれる。この橋が架かっている川沿いに、かつては4軒の旅館があり避暑地としてにぎわっていたとは今では想像もできない

浮世離れしたような温泉宿でココロの洗濯

僕にとっての温泉旅とはずばり、ココロの洗濯! じゃあ、ココロの洗濯ってそもそも何なのだろう。それは自分の中身を空っぽにすること。日々の雑事から抜け出して、欲望も煩悩も悩みもこだわりも、そんなのすべて忘れてしまって、湯の中に自分を解き放って“無”になってしまうこと。これですよ、これ。

できれば浮世離れしたような温泉宿で、ああ、もうほかに何もいらないと思えるような極上湯につかりまくって、冷えたビールでほろ酔いしながらのごろ寝と温泉の無限ループでダメ人間のように過ごすこと。

浴室へと続くいかにも温泉宿っぽい廊下。たった1泊の滞在で、この廊下をいったい何度行き来したことだろうか
客室は昔がならの和室が中心で、トイレと洗面所は共同

僕にとっての金湯館は、そんなことをするのに理想の温泉宿だったりするのだ。だってねぇ、通信会社によっては携帯電話の電波も届かない山の中腹、標高約1000メートルほどの霧積川上流に立っている一軒宿で、辺りには何もない。つまり、ここでは温泉に入ること以外は何もできないわけで、しかもここの湯はずっとつかっていられるようなぬる湯の極上湯。昔は湯に将棋盤を浮かべて、のんびりと将棋を打ちながら湯につかっていたなんて話も残る温泉なんですねぇ。

で、その湯に体を沈めればたちまち全身が細かい泡に包まれる。そう、鮮度も抜群の湯だったりする。硫黄がほんのり匂って、浴感も素晴らしい。そんな湯が100%源泉かけ流しであふれているのだ。シビレるねぇ。

加水、加温なしの源泉が24時間注がれ続けているから鮮度抜群だ

森村誠一の小説『人間の証明』はここで生まれた

それだけじゃないんですよ。ここは歴史の深い宿でもある。その昔、軽井沢が避暑地として開拓される前は、ここ霧積温泉が避暑地だった。今からは想像すらできないけれど、かつては4軒の旅館、30軒くらいの別荘も立っていて、伊藤博文や勝海舟をはじめ、多くの明治の要人が訪れたという。今でも金湯館には伊藤博文が明治憲法を創案したという部屋が残っている。

また、昭和の大ベストセラー、森村誠一の『人間の証明』を生み出すきっかけになったことも、ここ金湯館の知る人ぞ知るエピソードだったりする。森村氏が『人間の証明』を執筆した離れの部屋も残っている。

古い写真や色紙がさりげなく飾られ、山小屋のような趣の玄関
伝説のおにぎり弁当。包み紙に西条八十 (やそ)の詩が刷ってあり、その詩をヒントに森村誠一は『人間の証明』を書いた

とまぁ、そんなふうに只者ではない旅館でもあるのだ。伊藤博文も勝海舟も森村誠一も、ここのいつまでもつかっていられる湯に身を沈めて、ふにゃぁ~っと脱力して、ひとときだけダメ人間になったんだろうなぁ。きっとそうに違いない。

文/岩本 薫 写真/齋藤雄輝

夕食はサクサクの天ぷらがメイン。山で採れた葉っぱやキノコもあり「ああ、山の中にいるんだなぁ」とうれしくなる

霧積温泉 湯元 金湯館

料金:1泊2食平日・休前日1万4450円~(1人1室も同料金)
客室:全15室
食事:夕食・朝食=部屋
泉質:カルシウム―硫酸塩泉
貸切:なし

※料金は掲載時の金額です。

℡:027-395-3851
住所:群馬県安中市松井田町坂本1928
交通:信越線横川駅から送迎40分(要予約)/上信越道松井田妙義ICから15キロの金湯館駐車場から送迎15分(要連絡)、または徒歩30分

 

(出典:「旅行読売」2022年12月号)

(WEB掲載:2023年1月4日)

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Writer

岩本 薫 さん

温泉本作家。ひなびた温泉研究所ショチョー。昔ながらのひなびた温泉の魅力を今に伝える執筆活動にいそしむ。目指すは温泉界の吉田類。著書に『日本百ひな泉』『ひなびた温泉パラダイス』『ヘンな名湯』など。

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