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【小山薫堂さんが選ぶ 私の極上温泉】仙仁温泉 岩の湯

場所
  • 国内
  • > 北陸・中部・信越
  • > 長野県
> 須坂市
【小山薫堂さんが選ぶ 私の極上温泉】仙仁温泉 岩の湯

岩の湯の名物・洞窟風呂。平安時代に白根山の修験者が湯を掘り当てたと伝わることから、仙人の湯と名付けられた

 

こやま くんどう

放送作家。脚本家。1964年、熊本県生まれ。日本大学芸術学部放送学科在籍中に放送作家としての活動を開始。「料理の鉄人」「カノッサの屈辱」など、斬新なテレビ番組を数多く企画。映画「おくりびと」で第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第81回米アカデミー賞外国語部門賞を獲得。執筆活動のほか、京都芸術大学副学長、下鴨茶寮主人、2025年大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーなどを務める。「くまモン」の生みの親でもある。2020年10月、「一般社団法人湯道文化振興会」を創設。

館内には書斎がいくつもあり、客室にも本が置かれている
男女別の内湯。外にはモミジが覆う露天風呂もある

34度の源泉がゴウゴウとあふれ出す、野趣満点の洞窟風呂

蔵造りの商家が並ぶ須坂の町から車で15分ほど。勢いよく流れる仙仁(せに)川に沿って続く前庭と冠木(かぶき)門を抜けると、小さな橋の向こうに豪壮な建物が見えてきた。ここが「日本一予約のとれない宿」と評判の岩の湯だ。

創業は1959年。混浴の洞窟風呂が名物の「普通の山の宿」だった。転機はその30年後。2代目の金井辰巳社長による全館リニューアルだ。カラオケやゲーム、コンパニオンと決別。世はバブル期真っただ中である。素朴な山の宿らしくありたいと「日本型理想土(ふるさと)を旗印に、時代の逆を行った」(金井さん)。

面白半分の混浴から、老若男女問わず純粋に湯を楽しめる混浴へ。洞窟風呂の手前に男女別の内湯を作り、湯あみ着を設置。洞窟内にも仕切りを設け、誰もが入りやすくした。洞窟内から毎分500リットル湧き出す湯は34度。ぬるめで長く入れることを生かし「50年連れ添った夫婦が人生を語り、親子3世代が絆(きずな)を深める混浴」を目指し、それが評判を呼んだ。

建物の設計をした金井さんは「ぜひ客室から出て過ごしてほしい」と館内のあちこちに書斎やテラス、サンルームを設けた。その狙いどおり、本を読んだり、手紙を書いたり、ボーッとしたり、宿泊客は思い思いの場所で自由に過ごす。夕・朝食も好きな時間にとれるし、貸切風呂も好きな時に入れる。自然と客同士譲り合い、うまく回るのだという。

最もグレードの高い仙山亭の客室。和室と洋間が続き、テラスもある
貸切風呂は4か所。いずれも熱い湯とぬるい湯の湯船がある
煙が上がる川魚の塩焼き。食卓では歓声が上がり、会話が弾む(写真/岩の湯)
とれたての川魚の刺し身(写真/岩の湯)

「旅は非日常と言いますが、ここではうんと寛くつろげる日常の延長であってほしい。そのため、60人を超えるスタッフに心掛けてもらっているのは‟おかあさんの心”。家族や友人との会話が弾み、いつもよりたくさん笑い合ってもらえるよう努力しています」。そんな思いが通じてか、リニューアルから3年後には今のように満室状態が続くようになった。

周囲の植栽や遊歩道も自ら手掛けた。森を作ろうとモミ、カシ、ヤマボウシ、モミジ、コナラを植えた。30年前、国道から見えた宿の建物は、今は枝葉に隠れて見えない。

「ここ数年はコロナ禍の影響もあり、より自然が求められている、特に山の価値が見直されていると感じます。温泉や環境、食事など本物の自然の恵みを享受できる宿がますます必要とされるのでは」と金井さんは分析する。「また帰ってきますね」と、名残惜しそうに去ってゆく客たちの笑顔がそれを証明していた。

館内の至る所に生け花が。250個はあるという

仙仁温泉 岩の湯

料金:1泊2食平日3万900円~、休前日3万4200円~ 
客室:全18室
食事:夕食・朝食=個室食事処
泉質:アルカリ性単純温泉
貸切:貸切風呂4(無料)

※料金は雑誌掲載時の金額です

TEL:026-245-2453
住所:長野県須坂市仁礼3159
交通:北陸新幹線長野駅で長野電鉄に乗り換え25分の須坂駅からバス30分、仙仁下車すぐ/上信越道須坂長野東ICから10キロ


田中本家博物館

江戸時代より受け継がれてきた華やかな品々にため息がこぼれる(写真/田中本家博物館)
館内には喫茶「龍潜」もあり、食事も楽しめる。旬彩御膳は5日前までに要予約、3500円(写真/田中本家博物館)

須坂藩の御用達で、幕末には藩の財力をも上回っていたという豪商・田中本家の屋敷を公開。当家に伝わる衣装や器など暮らしの品の数々と、四季折々に表情を変える庭園が見どころ。紅葉は11月中旬が見頃だ。

11時~15時(土・日曜、祝日は10時~15時30分)/火曜休(1月は土曜~月曜のみ開館)、喫茶は11時~15時30分
入館料:1000円
交通:須坂駅からタクシー5分
TEL:026-248-8008

文/中 文子 写真/三川ゆき江

(出典:「旅行読売」2022年12月号)

(WEB掲載 2023年1月2日)

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Writer

中 文子 さん

神戸生まれの大阪育ち。学生時代に旅に目覚め、アジア(おもに中国)や国内各地を探訪。旅を仕事にできたら面白そうだ!と旅行読売出版社に入社。広告課、編集部、メディアプロモーション部(広告)を経て、22年4月からメディア編集部所属。現在は、小1の壁と向き合いながら時短勤務中。温泉とお酒、楽器演奏が大好き。

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