【旅する喫茶店】日本茶喫茶 棗(高崎)
重厚な観音扉が座敷蔵の壁の厚さを物語る
文化と歴史を伝える、明治時代築の座敷蔵
高崎駅西口から歩いて10分ほどにはかつて高崎城があり、中山道(なかせんどう)が通る一帯は大いににぎわっていたという。その様子は「お江戸見たけりゃ高崎田町、紺の暖簾(のれん)がひらひらと」と古謡で歌われた。
今やマンションやビルが林立し、その面影を探すのは難しいが、旧中山道から少しそれた住宅街を歩くと、蔵造りの日本茶喫茶 棗(なつめ)があった。1887年に米店の座敷蔵として建てられた蔵を利用し、18年前から日本茶喫茶として営業している。
分厚い観音扉をくぐり中へ入ると、築135年にもなるのに不思議なことに古さは感じない。その理由は、修繕が行き届いているだけでなく、梁(はり)や柱や窓の格子(こうし)や畳のへりが、寸分の狂いなく水平、垂直に据えられているからではないかと解釈した。戦禍や震災に見舞われても微動だにせず人々の暮らしや財産を守ってきた、蔵の〝矜持(きょうじ)〞がにじんでいる。
水車に使われていた板をカウンターに、古い扉をテーブルに再利用するなど、自然体の〝エコ〞にも好感が持てる。
店は、米店に生まれ育った平野昭子さんがひとりで営む。2階はフリースペースになっていて、文学愛好家の集いの場やギャラリーとして使われることもある。棗とは抹茶を入れる茶器の一種。この店、この蔵自体が、街の文化を優しく包み歴史を伝える器のように思えた。
文/渡辺貴由 写真/齋藤雄輝
日本茶喫茶 棗
住所:群馬県高崎市宮元町223
交通:北陸・上越新幹線高崎駅から徒歩10分
℡:027-326-1167
※掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2022年12月号)
(Web掲載:2023年1月2日)