【旅の朝ごはん】クラシックホテルで優雅に(1)
朝食の洋食には、オムレツとハム、ベーコンのほか、パン、サラダ、フルーツなどが付く
ゴルフコースで有名な川奈ホテルで朝食を
クラシックホテルの朝食に憧れがあった。戦前に建てられた天井の高い洋風食堂で、クラシカルな意匠に囲まれながら、格式高いブレックファストを味わう。その夢がかなった。
東伊豆の川奈の地に立つ川奈ホテルは「日本クラシックホテルの会(※)」に加盟する九つのホテルの中でも、オフシーズン朝食付き1万円台の価格と、東京から車で約2時間30分のアクセスの良さから、冒頭の〝夢〟を実現しやすいホテルだ。
開業は昭和初期の1936年、大倉財閥2代目総帥の大倉喜七郎が留学先の英国貴族のライフスタイルに憧れ、当地の城をモデルに設立した。初めに造成したゴルフ場は上流階級の社交場になり、戦後、アメリカ軍の接収解除後は皇族やマリリン・モンローら著名人も訪れた。「バロン」と呼ばれた喜七郎はホテルオークラ、赤倉観光ホテルも開業している。
玄関を入った瞬間、空気が変わる。吹き抜けのロビーの窓の外、ヤシの木の先に広がるのは色鮮やかなゴルフコースと水平線。暖炉の上の鷲と槍の紋章、絨毯(じゅうたん)の上の革張りのソファなど、地階に展示されている昔の白黒写真と見比べてもほとんど変わっていない。ホテルが建てられた時代で時が止まっているかのようだ。音がなく、時おり客の話声や大理石の上を歩く足音などが、どこからかかすかな反響とともに聞こえてくる。
「歴史的な空間を静かに味わっていただきたいので音楽はかけていません」とスタッフの清水貴英さんは言う。
受け継がれてきた正統派プレーンオムレツ
主役の朝食は、洋食ならメインダイニングの、濃紺色のクロスを掛けたテーブルにつき、ナイフとフォークで味わう。
オーダーを受けてから作る、塩・コショウ、バターだけで味付けしたプレーンなオムレツは、しっかり焼けた外皮が破れると、とろとろの半熟状の卵がこぼれ出てきて、異なる食感と県産赤卵の濃厚な味が口の中に広がる。伊東市のパン店が作るライ麦パンのトースト、クロワッサンとの相性がすばらしい。県産のハム・ベーコンやイチゴ・オレンジのジャム、自家製フレンチドレッシングのサラダなど、どの品も質へのこだわりと王道の安定感がある。
10代目料理長の窪田豪さんは「私がこのホテルに入った30年ほど前からオムレツやスープなど主要なレシピは変わっていません。朝食は手作りと、アメリカンブレックファストスタイルを受け継いでいます」と話す。
海と山の風景に癒やされるリゾートホテル
川奈ホテルも紆余(うよ)曲折があった。1998年に西武グループが買収し、現在はプリンスホテル系列になっているが、伝統を知る人は健在であり、その技法とレシピを継承している。
窓の外の風景もご馳走(ちそう)の一つだ。クラシックホテルとは、いわずもがな、まずはリゾートホテルなのだ。街の喧騒(けんそう)からは遠く隔たった場所で、海や山に目を癒やされる。昭和30年代の伊豆急行線の開業の際、創業者はホテル近くに駅を建設する打診を断り、あえてホテルから見えない離れた場所を望んだそうだ。静寂の中、そんなエピソードもまた味わい深い。
文/福﨑圭介 写真/青谷 慶ほか
※日本クラシックホテルの会……日光金谷ホテル(栃木)、東京ステーションホテル(東京)、ホテルニューグランド、富士屋ホテル(神奈川)、川奈ホテル(静岡)、万平ホテル(長野)、蒲郡クラシックホテル(愛知)、奈良ホテル(奈良)、雲仙観光ホテル(長崎)
近くの見どころ
川奈ホテルの裏にある標高321㍍の小室山の山頂に、2021年にオープンしたカフェ。地層カフェラテ、“MISORA”ヨーグルトフラッペ(各600円)、クラフトビール(800円)などを飲みながら、専用展望デッキから相模灘や伊豆大島を眺める。隣接する山頂の木道からは富士山など東伊豆の絶景を360度見渡せる。
■10時~15時30分/無休(荒天・メンテナンス時休)/小室山の往復リフト料金800円/伊東線伊東駅からバス23分、小室山リフト下車すぐのリフト5分で小室山山頂/TEL:0557-45-1444(小室山リッジウォーク“MISORA”)
※データや料金は掲載時のものです。
TEL:0557-45-1111
食事:朝食・夕食=レストラン
交通:伊東線伊東駅からタクシー15分(送迎あり、要予約)/西湘バイパス石橋ICから47㌔
住所:静岡県伊東市川奈1459
料金(税込み)
1人1室利用 2万7087円~、3万6087円~(平日)
2万9023円~、3万8023円~(休前日)
2人1室利用
1万5592円~、2万4592円~(平日)
1万6439円~、2万5439円~(休前日)
※掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2023年3月号)
(Web掲載:2023年5月10日)