駅舎のある風景 武州唐沢駅【東武越生線】
甘い香りに包まれ白梅に彩られる春
水戸偕楽(かいらく)園、熱海(あたみ)梅園とともに関東三大梅林の一つとされる越生(おごせ)梅林を訪ねようと、池袋駅から東武東上線に乗った。東武越生線に接続する坂戸駅で4両編成の列車に乗り換えると、所々に梅が植えられたのどかな田園風景が車窓に広がった。
越生駅から歩くこと約40分。越上山(おがみやま)に端を発する越辺(おっぺ)川のほとりに、奈良県の月ヶ瀬(つきがせ)梅林にあやかって新月ヶ瀬豊楽園(ほうらくえん)梅林と命名された梅林がある。昭和30年代に越生梅林と呼ばれるようになった園に約1000本、周辺の梅林も含めると約2万本の梅の花が、春の越生を彩る。
帰りぎわ梅林に囲まれた武州唐沢(ぶしゅうからさわ)駅に降り立つと、ほんのり甘い香りがホームを包み込んでいた。すぐ脇にある白壁の小さな駅舎をくぐり抜け、辺りを散策しているうちに、夜のとばりが降りてきた。ブルーモーメントの夜空に、可憐(かれん)な梅の花が浮かび上がっていった。
文・写真/越 信行
東武越生線は1934年全線開業。武州唐沢駅も同年開業。池袋駅から急行と普通列車で約1時間
(出典:「旅行読売」2022年3月号)
(Web掲載:2023年5月16日)