【旅する喫茶店】ミルクホール(鎌倉)
映画「ツィゴイネルワイゼン」のロケに使われた当時のままのバーカウンター。右は磯見史子さん
鎌倉の路地裏で感じるノスタルジー
観光客でにぎわう鎌倉の小町通りから細い路地をたどった先にカフェ「ミルクホール」はある。創業は1976年。マスターの磯見藩(まもる)さんが自宅車庫を改装して始めた彫金とアンティークの店を改造し、人が集まる店にしようと、仲間と手造りで完成させた喫茶店だった。
十数年前、老朽化から建て替えを迫られた際、「居心地の良い場所を守りたい」と、夫人の磯見史子さんは皆が無理だと思ったことをなし遂げた。建築デザイナーだった史子さんは、素人が建てたので図面もない中、床から天井、壁や窓など、すべて実測して設計図を引き、一度更地にして新たに土台と骨組みを造り、床や壁板、調度類は再利用して2010年にこの店を復活させたのだ。
常連客でもそれとは気付かないほど、ほぼ完全に店の内装が再現され、レトロな風情に満たされている。かつてはダーツの公式戦が行われ、ジャズライブも開催されていた。時代ごとに変化はあるものの、居心地良くくつろげるこの空間こそが、「ミルクホール」の神髄なのだ。
コロナ禍で夜に営業しない分、昼からビールが飲めるセットで自家製スモークチキンをつまみながら、フリーペーパー「ミルクホールタイムス」を読む。客が退屈しないようにと作ったそれは今、345号を数える。店内には昔と変わらずジャズとともに、穏やかな時間が流れていた。
文/田辺英彦 写真/齋藤雄輝
ミルクホール
住所:神奈川県鎌倉市小町2-3-8
交通:横須賀線鎌倉駅から徒歩5分
営業:11 時~L.O.18 時(土・日曜、祝日は~L.O.18 時30 分)/水曜休 ※掲載時のデータです。
TEL:0467-22-1179
(出典:「旅行読売」2023年6月号)
(Web掲載:2023年6月12日)