【私の街の路面電車】のどかな都内の沿線風情を楽しむ 世田谷線(1)
若林踏切。東京の大動脈環状7号線をゆっくり渡る姿は見どころの一つ
今や都電荒川線と2線のみとなった、東京の路面電車
世田谷線は三軒茶屋から下高井戸までの5キロ、わずか10駅を18分で結ぶ。今や都電荒川線と2線のみとなった、東京の路面電車だ。
起終点の三軒茶屋駅は、複合施設キャロットタワーの1階と直結している。駅舎はヨーロッパを思わせるレンガ造り。アーチ形の屋根に覆われたホームに入って来た電車は鮮やかなコバルトブルーの2両編成。小ぶりでなんだか愛らしい。
「初めて見るお客様は、ホームで〝わー、かわいいね〟って、よく話されています」と、車内案内係の樋口理江さん。車両は黄色、橙(だいだい)色、ピンク色、緑色など、どれもカラフルな色合いで、沿線にある豪徳寺の招き猫があしらわれたラッピング電車も走っている。「招き猫の電車を目当てに訪れる外国人観光客の方も増えていますよ」と運転士の福岡慎也さんも続ける。
若者にも人気のポップな路線だが、実はその歴史は古く、地元の人たちの移動手段として大きな役割を担ってきた。前身は「玉電」の愛称で親しまれた玉川電気鉄道玉川線の支線、下高井戸線で、1925年に開業した。が、モータリゼーションの波を受け、道路混雑で定時運行が滞るなどの問題が浮上。69年には、国道246号を走っていた本線をはじめ、下高井戸線区間を除く全路線は廃止され、下高井戸線のみが世田谷線と改称して存続することになった。路線の大半が住宅街に敷かれた専用軌道だったため、車も一緒に走る併用軌道が抱える問題がなかったことも、功を奏したようだ。
三軒茶屋を出た電車はゆっくり住宅街を進んで行く。車窓をのんびり眺めるにはちょうどいいスピードだ。西太子堂駅を過ぎ、若林駅の手前で若林踏切にさしかかる。路線内で唯一併用軌道を走る区間だが、踏切といっても遮断機はない。赤信号のときは手前で停車し、青になると電車も歩行者と同じように、国道にずらっと並ぶ車の列を横目で眺めながら、環状7号線をゆっくり渡っていくのである。
文/高崎真規子 写真/三川ゆき江
【私の街の路面電車】のどかな都内の沿線風情を楽しむ 世田谷線(2)へ続く
■モデルコース
<三軒茶屋>
↓ 3分
<若林>
↓ 2分
<松陰神社前>
松陰神社、Hawaiian Restaurant ALOHABABY
↓ 5分
<宮の坂>
豪徳寺、旧玉電車両
↓ 8分
<下高井戸>
下高井戸駅前市場
●開業:1925年
●営業距離:5.0キロ
●駅数:10
●「世田谷線散策きっぷ」:380円。当日に限り、何回でも乗り降り自由。世田谷線三軒茶屋駅、下高井戸駅で販売
●問い合わせ:東急お客さまセンター/TEL:03-3477-0109
※掲載時のデータです
(出典:旅行読売2023年9月号)
(Web掲載:2023年9月7日)