【私の街の路面電車】100年の歴史に「日本初」がいろいろ 熊本市電(1)
OMO5熊本 by 星野リゾートのテラスから市電を見下ろす。茶色の車両は開業時~戦前の塗装を復活させたレトロ調電車101号
「わさもん」の路面電車に時代の新技術を見る
「わさもん」。熊本の言葉で「新しいものが好き」を意味するこのフレーズを、今回の取材中に何度も聞いた。来年に開業100周年を迎える熊本市電も、実は「わさもん」だ。と言うのも様々な「日本初」に挑戦してきたからである。
熊本市電では1978年に路面電車では最初の冷房車が登場。82年には営業用鉄道車両として日本初のVVVF(ブイブイブイエフ)インバーター制御車を導入した。これは、簡単に言うとスピードの加減などが効率的になり、省エネルギー効果も期待できる仕組みだ。97年には日本初の超低床車が登場。さらに2002年に採用したインファンド工法(軌道を樹脂で固定して振動や騒音を軽減)、10 年に実施したサイドリザベーション化(道路の端に軌道を設置)と、日本初は枚挙にいとまがない。
新旧入り交じる車両が熊本の繁華街を行き交う
停留場で待っていると、スタイリッシュな超低床車が静かに走り出したかと思えば、車輪を軋(きし)ませながら昔の塗装を復活させた古い車両がやってくる。「チンチンチン」と古風なベル音が車内に響く車両もある。朝夕は通勤・通学客などで混み合い、深夜には終電時間を気にしながら停留場へ向かう酔客の姿も。路面電車がない街に住む旅行者にとっては、すべてが新鮮だ。
そんな熊本市電沿線には見どころも多い。散策のスタートは熊本駅前。健軍町行きのA系統に乗り、辛島町で上熊本行きのB系統に乗り換えて上熊本へ向かった。1896年、旧制第五高等学校の英語教師として熊本に赴任した夏目漱石が、最初に降り立ったのが現在の鹿児島線上熊本駅(当時は九州鉄道池田停車場)。その地を訪ねてみたかった。
文/渡辺貴由 写真/齋藤雄輝
【私の街の路面電車】100年の歴史に「日本初」がいろいろ 熊本市電(2)へ続く
■モデルコース
<熊本駅前>
↓ 12分
<辛島町>
↓ 16分
<上熊本>
周辺散策
↓ 38分
<水前寺公園>
水前寺成趣園、ジェーンズ邸、夏目漱石大江(第三)旧居
<市立体育館前>
↓ 18分
<熊本城・市役所前>
熊本城、OMO5熊本 by 星野リゾート
●開業:1924年
●営業距離:12.1km
●停留場数:35
●「熊本市電1日乗車券」:500円。車内で販売。紙券のほかモバイルチケットもある。施設利用割引券付き
●「モバイル24時間乗車券」:600円。スマートフォンで専用アプリをダウンロードして購入。施設割引あり
●問い合わせ:熊本市交通局TEL096-361-5233
※掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2023年9月号)
(Web掲載:2023年9月3日)