富士山は下ってもオモシロイ!
大きく開いた宝永火口の脇を下る
富士山のもう一つの楽しみ方、「富士下山」
10月にいざ日本一の山へ。といっても富士山の開山期間は9月10日までで、登山可能な時期は過ぎているはず。その答えが富士山のもう一つの楽しみ方、「富士下山」である。標高2460メートルの富士宮口五合目から約1000メートルの標高差を下り、御殿場口新五合目を目指す“登らない”富士山だ。
登山シーズンを過ぎた登山口は本来の静けさを取り戻し、人はまばら。登山道も自分のペースで歩ける。「下山」とはいえ、最初の20分は六合目までの登山。ちょっとの頑張りで着くと、ごほうびは大パノラマ。紅葉のグラデーションが裾野へ広がる先に駿河湾や伊豆半島、箱根連山が見渡せる。所々に雪代(ゆきしろ)と呼ばれる雪崩の跡が山腹を大きくえぐり、季節風にさらされるカラマツの枝は西から東へ流れ、環境の厳しさを物語っている。
見上げれば、富士山の剣ヶ峰が間近に迫る。登山道に沿って山小屋がいくつも立っている。富士宮ルートは富士山の登山道の中で最短距離だが、急登で4時間かかるという。この辺りが森林限界のため、荒涼とした山頂部と樹林帯の違いが際立つ。
歩いていくと、やがて宝永山(ほうえいざん)が見えてきた。宝永山は1707年の宝永大噴火によって出来た側火山で、これが現在に至る富士山の最後の噴火である。大きくくぼんだ火口に登山道がつけられていて、標高2693メートルの頂上に立つことができる。
尾根を下っていくと、宝永山は徐々に姿を変えていき、ライオンのように見えるところもあった。左に富士山頂、右に宝永山が並んで見えるのは、このルートならではの景観だ。
御殿庭入口を過ぎると、樹林帯に突入。「エアーズロックみたい」という声が上がった。樹間から茶色い宝永山が横たわる様は岩山のようで、日本とは思えない。歩くごとに次々と変わる展望は飽きさせない。
樹林帯が途切れると、登山道の左右に紅葉したイタドリが点在し、鮮やかな彩りを添える。見上げると、富士山と宝永山が同じ高さで並んでいる。「紅葉の天空テラス」と名付けたい絶景だ。多くの人が足を止め、ここでしか見られない景色に見入っていた。
大小二つの丘が並ぶ二ツ塚を過ぎるとゴールはもうすぐだが、最後に「大砂走り」が待っている。細かい砂礫が堆積していて、くるぶしまで埋まる。走ると爽快感が味わえるという趣向だが、バランスを崩しての転倒には注意したい。
御殿場口新五合目に着くと、富士山も宝永山も雲に包まれていた。天候に恵まれれば4時間の道中は変化に富み、「下山」という地味な言葉では伝わらない魅力が詰まっている。富士山を下ることで、登ったことのない日本一の頂への憧れが高まった。
<問い合わせ>
しずおか富士山利活用推進協議会(富士山観光交流ビューロー)
TEL0545-64-3776
※御殿場口新五合目から御殿場駅へ向かうバスの2023年の運行は11月5日に終了(運行は土・日曜、祝日のみ)。2024年の運行は要確認。
富士山ハイキングバスの運行についてはこちら
(WEB掲載:2023年10月20日)