インド・アグラ 世界で最も美しい霊廟 タージ・マハル(2)
アグラ城から遠望するタージ・マハル。川越しに斜め後ろからみる姿は美しい
先立たれた愛妃への思い、建設に22年の歳月費やす
インド・アグラ 世界で最も美しい霊廟 タージ・マハル(1)から続く
インド・イスラム建築の最高傑作といわれるタージ・マハルはどのようにして生まれたのか。中央アジアから侵攻したトルコ系イスラム王朝のムガル帝国は、17世紀末から19世紀後半にかけてインド南端部を除くインド亜大陸を支配した。約330年にわたる治世の最盛期、第5代皇帝シャー・ジャハーンが、1631年に死去した愛妃ムムターズ・マハルへの思いを永遠に留めるために造った墓なのだ。国事として彫刻家、象眼師、宝石工など2万人ほどの職人を国内外から集め、22年もの歳月を費やして築いたという。
高さ58メートルの廟堂内にムムターズ・マハルの棺が安置されている。シャー・ジャハーンはタージ・マハルの裏手を流れるヤムナー川の対岸に、相似形の自身の霊廟を黒大理石で造ろうとしたが、かなわなかった。晩年、息子で第6代皇帝アウラングゼーブによってアグラ城に幽閉され、遠くタージ・マハルを眺めて過ごしたという。死後、シャー・ジャハーンの棺は愛妃の横に置かれた。
諦めきれずホテルの屋上へ、月下に霊廟の黒いシルエット
3人のムガル皇帝の居城となったアグラ城を訪れ、謁見の間、寝殿、モスクなどを巡った。「城内の建物の多くは、第5代シャー・ジャハーンが建造したもの。各皇帝が造った建物には特徴があり、第3代アクバルは赤砂岩、第5代シャー・ジャハーンは白大理石、第4代ジャハーンギールはその両方を好んだようです」とラベンダーさんは解説する。
シャー・ジャハーンが幽閉されていた部屋の辺りから遠望するタージ・マハルも美しい。湾曲して流れるヤムナー川の向こうに廟堂や小楼、モスクの丸屋根、尖塔が林立し、午後の熱気にゆらぐ蜃気楼のようだった。
日没後、月下のタージ・マハルを諦めきれず、あるホテルに向かった。屋上の露天カフェからタージ・マハルが見えるらしい。12月の寒空の下、月ははるか東にあり、正門の向こうには月明かりに照らされた妖しくも優美な姿はなく、廟堂の黒いシルエットが浮かんでいた。
こんな寒い夜のチャイ(インド式ミルクティー)は最高だ。甘く熱いチャイが冷えた体に染み渡り、心地良いスパイスの香りが異国の夜をすっぽりと包んだ。
文・写真/福崎圭介
※料金等すべて掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2016年8月号)
(Web掲載:2023年12月5日)