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インド・アグラ 世界で最も美しい霊廟 タージ・マハル(1)

場所
インド・アグラ 世界で最も美しい霊廟 タージ・マハル(1)

正門前から見る廟堂とミナレット。左にモスク、右に迎賓館の屋根が見える

 

妖しくも優美な月下の霊廟、ガイドの手違いで見学断念

「その身体は月光に照らされたタジマハールみたいな香りがした」

アメリカの作家レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説『リトル・シスター』の作中、主人公の探偵マーロウがある女性とすれ違った時の描写である。

チャンドラーが月下のタージ・マハルを実際に見たかどうか定かでない。だが、この白亜の建造物がもつ、妖しくも優美な雰囲気を比喩的によく表している。

タージ・マハルはインド独立運動の象徴であるマハトマ・ガンディーが暗殺された1948年以降、警備を理由に夜間の閉鎖が続いたが、2004年から満月の前後5日間だけ入場できるようになった(※)。とはいえ、照明は月明かりだけというから、雨季にあたる夏や霧が出やすい冬の夜は、暗くてほとんど目視できないだろう。

(※金曜とラマダーン期間は休館。昼は日の出~日没。夜は20時30分~翌0時30分<事前予約が必要で、見学は正門の前まで>※掲載時のデータです)

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月下のタージ・マハルを一目見ようと、現地ガイドのラベンダーさんの車で首都ニューデリーから南へ約180キロの旧都アグラへと向かった。

数年前に開通した高速道路のドライブは快適だったが、到着後に予想外の事実を聞かされ愕然とした。ガイドが「手違いで夜間入場券(750ルピー=約1160円)を入手できなかった」と言うのだ。

ガイドのラベンダーさんは、シク教徒でターバンを巻いていた

夜のタージ・マハルに入場するには、事前にインド考古調査局の販売所で夜間入場券を購入する必要がある。20時30分〜翌0時30分の公開時間を30分ごとに区切り、各回50人が入場するので、1日400人に限定している。翌日夕刻には帰国便に乗らなくてはならない。こうしたアクシデントはインド旅行につきもので、土産話と思って気持ちを切り替えるしかない。

入場制限がない昼間のタージ・マハルは混雑していた。販売所でチケット(1000ルピー=約1550円)を買い、1キロほど離れた東門でセキュリティーチェックを受けて入場した。

前庭前の正門から入ると、正面にタージ・マハルが見える
曲線を描く丸屋根がエキゾチックなタージ・マハル
タージ・マハルの白大理石の表面は透かし彫りなどで装飾されている

タージ・マハルの敷地は南北560メートル、東西303メートル。南端の約4分の1を占める前庭部を過ぎ正門を抜けると、十字の水路が芝生を四分割する庭園の先に白亜の建物が見えた。インド各地から集めた大理石で造った基壇、タマネギのような丸屋根を頂く廟堂、さらにそれらを囲む四隅のミナレット(尖塔)が、緑の庭園とともに完璧なシンメトリーを描いている。

「高さ約42メートルの四つの塔がわずかに外側に傾いている理由がわかりますか? なにかの拍子に倒れても、廟堂を傷つけないようにという配慮からです」とラベンダーさんが教えてくれた。

廟堂に近づくと、大理石を覆う花草木を意匠化した浮き彫りや象眼細工、緻密な幾何学模様の透かし彫り、聖典コーランのカリグラフィー(装飾文字)などに眼を奪われる。

文・写真/福崎圭介

インド・アグラ 世界で最も美しい霊廟 タージ・マハル(2)へ続く(12月5日公開予定)


※料金等すべて掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2016年8月号)
(Web掲載:2023年12月4日)


Writer

福崎圭介 さん

新潟県生まれ。広告制作や書籍編集などを経て月刊「旅行読売」編集部へ。編集部では、連載「旅する喫茶店」「駅舎のある風景」などを担当。旅先で喫茶店をチェックする習性があり、泊まりは湯治場風情の残る源泉かけ流しの温泉宿が好み。最近はリノベーションや地域再生に興味がある。趣味は映画・海外ドラマ鑑賞。

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