たびよみ

旅の魅力を発信する
メディアサイト
menu

【1万5000円で泊まる名湯の宿】温泉好き会社員 永井千晴さん おすすめ ランプの宿 青荷温泉

場所
> 黒石市
【1万5000円で泊まる名湯の宿】温泉好き会社員 永井千晴さん おすすめ ランプの宿 青荷温泉

ヒバの香りが豊かな「建六の湯」。湯面から湯けむりが立ち上る

 

テレビもネットもない暗がりへ「なにもしない」に浸かる一軒宿

会社員である私は日々デスクワークをしていて、一日中パソコンと向き合っている。毎日寝る直前までだらだらとスマホを見てしまい、休日は話題のドラマや映画を鑑賞。私の生活は、画面とともにある。そういう毎日に身を任せる中で、ふと「もうなにも見たくない、すべてから解放されたい」と思う瞬間がある。そんなときにひとりで訪れたのが、ランプの宿 青荷温泉である。

本館。「よぐきたねし」の看板がほっとさせる

11月中旬だったが、山奥にある宿の周りはもうすでに雪が積もり始めていた。中へ入ると、石油ストーブの匂いが鼻をくすぐる。館内ではランプがいくつも灯(とも)されているが、廊下や客室、大浴場に食事処も、日が出ている外より暗い。「ランプの宿」という名にふさわしく、青荷温泉には電気が通っていないのだ。スマホも圏外で繋(つな)がらず、もちろんWi-Fi(ワイファイ)もない。テレビもなく、ランプとストーブと温泉だけが用意されている。青荷温泉は「なにもない」暗がりが一番の魅力で、それを求めて国内外から客がやってくる。私が訪れたときは、韓国人女性が複数人で泊まっていて、非日常空間に冒険心をかきたてられているようだった。

シンプルを極めた和風の客室
宿ではランプの明かりだけを頼りに一晩を過ごす

チェックインを済ませ、まずは離れにある「建六の湯」へ。個性派ぞろいの青森においては逆に珍しさも感じるほどの、柔らかくて優しい単純温泉である。風情あるヒバ造りの湯船にひたひたに注がれ、体を沈めるとざばんと湯があふれていく。チェックイン後から日が暮れるまでのわずかな黄昏(たそがれ)時、ランプの明かりだけを頼りに、少しずつ湯船の中で暗闇に包まれていくこの感覚。一番贅沢(ぜいたく)な夜の迎え方だと言える。

敷地内には四つの風呂があり、つり橋を渡った先にある大浴場「滝見の湯」には、趣向の異なる石造りの湯船や露天風呂がある。ほかに混浴の露天風呂があり、女性専用時間が設けられているのもありがたかった。

冬は露天風呂のすぐそばまで雪が迫る

食事は山菜や川魚が並び、山奥の一軒宿らしい品ぞろえ。イカをミンチにして揚げた郷土料理「イガメンチ」や、近くの川で捕れたイワナの塩焼きなど、地産の味を十分に楽しめる。食事処に集ったほかの客は、パートナーや友人と、もしくは私のようにひとりで滞在していて、この「なにもしない」特別な時間をゆるりと過ごしていた。

夕食には温かみのある山菜料理が並ぶ

客室に戻って文庫本を開いてみたが、ほんのりと灯るランプが眠りを誘った。この宿の夜は早い。寝る前にはストーブを消すので、布団で暖をとりながら丸まって眠る。あらゆる体験が原始的で、五感が研ぎ澄まされていった。ランプの明かりは情報を限りなく減らしてくれ、帰る頃には頭が少し軽くなったように感じた。ここは、「なにもしない」に浸かるという、唯一無二の宿であった。

文/永井千晴

永井千晴さん (温泉ライター・温泉好き会社員)

1993年、神奈川県生まれ。一般企業に勤めながらSNSで推しの温泉を紹介している、市井の温泉好き。足元から湧く温泉、ぬるい温泉を愛する。著書に『女ひとり温泉をサイコーにする53の方法』(幻冬舎)


ランプの宿 青荷温泉

TEL:0172-54-8588 
住所:黒石市沖浦青荷沢滝ノ上1-7
客室: トイレなし和室など全32室
温泉:単純温泉
食事:夕食=大広間、朝食=食事処
料金(2人1室利用・税込み):朝食付き平日 ― 休前日 ― /2食付き平日1万3900円~ 休前日1万5000円~
※露天風呂あり、掛け流し
※ひとり泊可(通年、+3300円)。2024年1月10日から水・木曜休館
交通:12月~3月は弘南鉄道黒石駅からバス25分、板留下車後送迎30分(要予約)/東北道黒石ICから10キロの道の駅虹の湖から送迎25分(要連絡)

※料金等すべて掲載時のデータです。

(出典:旅行読売2023年12月号)
(Web掲載:2024年1月8日)

☛読売旅行で行く ランプの宿青荷温泉のプランは こちら


Related stories

関連記事

Related tours

この記事を見た人はこんなツアーを見ています