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【1万5000円で泊まる名湯の宿】井門隆夫さんが解説! 物価高のいま、旅館・ホテルの現在地

【1万5000円で泊まる名湯の宿】井門隆夫さんが解説! 物価高のいま、旅館・ホテルの現在地

箱根つたや旅館「やちよの湯」

 

 

井門隆夫(いかどたかお)さん

20年の旅行業経験や10年にわたる旅館事業再生の現場を通して見てきた旅館は1000軒以上。旅館業と地域との連携を通じて、新時代に対応した「地域の仕組みづくり」の実践を支援している。国学院大学観光まちづくり学部教授。All About旅館ガイド。

ここ数年にわたる宿泊料上昇の要因

アフターコロナにおいて、宿泊費が値上がりしたと感じる方が多いのではないだろうか。全国旅行支援で便乗値上げしたからというわけではない。燃油代、食材原価、人件費とあらゆる価格が値上がりし、とてもコロナ前の価格ではやっていけないのが現状だ。

今では地方の短時間アルバイトでも都会並みの時給を出さないと応募はない。そもそも求人を出しても、地域から人材がいなくなり、外国人スタッフが中心になりつつある。つまり、近年の価格上昇の最大の理由は、サービススタッフがいないため全客室を埋められず、値上げをせざるを得ないというものだ。

5年前までであれば、今回(旅行読売1月号)の特集も「1万円で泊まれる宿」だっただろう。おそらくこの5年間で平均5000円程度は値上がりしているのではないか。そのため、1万5000円という価格は、かつての1万円の宿という感覚で捉えてちょうどよいと思う。今、地方の温泉旅館で平均的な価格帯は平日でも1泊2食付きで2万円前後が多いだろう。

昨今、都市部のホテルはほぼすべてで、中には地方の旅館でも、業界向けソフトウェアが価格を決める「ダイナミックプライシング」という手法が広がりつつある。かつては週末が少し高めで、平日は安めの料金が普通だった。しかし、今では満室が予測される日は早々に価格が上がる。

これは、ソフトウェアが周辺の旅館・ホテルの価格を自動でサーチしているためだ。そのため、価格の高い日はどの宿も横並びで高くなっていることが多い。

では、1泊2食1万5000円程度の宿はどこにあるのか。

有名観光地で選ぶのは素泊まりやゲストハウス

まず、有名温泉地で探すのはひと苦労だろう。インターネットで宿を探す時代となり、SNSで情報が拡散される観光地に、日本人も外国人も一層集中する傾向が顕著になっている。そうした地域には不動産投資も集中するので、オーバーツーリズムを誘発する。

そのような場所では素泊まりの宿やゲストハウスが狙い目だ。素泊まりといっても、地元の老舗旅館が休廃業した宿を引き継ぎ、和モダンに改装しているケースが多い。草津温泉や四万(しま)温泉のように、食事が付かない宿が増えることにより周辺に飲食店が増え、地域活性化につながり、さらに人気が増している温泉地もある。

また、スタッフを常駐させず、トイレやシャワーを共用とすることで価格を抑えるゲストハウス型も増えつつあり、むしろ若い客層はそうした宿を選ぶようになってきている。

スタッフもいて、食事も付いて、温泉大浴場もあって、有名観光地で1万5000円の宿を探すのは難易度が高くなりつつあるのが現実だ。

箱根で1万円ほどで泊まれる老舗旅館型ゲストハウス「箱根つたや旅館」

穴場的温泉地に残る1万5000円の宿

そこでインターネットで探してもなかなか出てこないような温泉地から探すのがおすすめだ。私がよく行くのは栃尾又(とちおまた)温泉(新潟)、沢渡(さわたり)温泉(群馬)、温泉津(ゆのつ)温泉(島根)など。知る人ぞ知る温泉の泉質はいずれも極上だ。こうした温泉地はまだ残っている。地図で温泉マークを探しながら見つけるのが楽しい。インターネットに頼るばかりではなく、アナログ式に探すことでそうした温泉宿に出合うことができる。

著者お気に入りの温泉津温泉(島根)

こうした温泉地の宿はひとり旅でも受けてくれることが多い。価格も高くなく、温泉は極上で、食事も付いて、ひとり旅も受けるとなると、かえって稼げているのだろうかと心配になってしまうが、こうした宿では、スタッフを雇うことをやめ、夫婦や家族だけで切り盛りしていることが多い。そのため、毎週休館日があったりする。

これから生き残る宿とは、おそらく次の4種だろう。

❶星野リゾートや大江戸温泉物語のように所有(資本)と運営を別会社化し、全国の旅館を再生していく旅館チェーン。
❷単価を上げ、一定の富裕層のリピーターを常連化していく宿。
❸地域内で後継者のない宿を引き継ぎ、高級旅館からゲストハウスまで多業態化していく宿。
❹家族だけで背伸びをせずに家業として営みを続けていく宿。

個人経営の小さな宿で人を雇い、安価で経営できる時代は終わりつつある。令和の温泉宿のスタイルを理解し、先進的な宿を探したい。

文/井門隆夫


【宿泊施設の種類別にみた1回あたりの個人旅行の宿泊費(大人1 人あたり)】
           22年度  21年度  20年度
   全 体     19,900円 19,000円  18,600円
   シティホテル  20,700円   19,200円   18,300円
   ビジネスホテル 13,100円   12,500円   11,000円
   リゾートホテル 28,200円   25,900円   24,500円
   旅 館     24,200円   23,000円   22,900円
※「じゃらん宿泊旅行調査2023」じゃらんリサーチセンター調べ

※料金等すべて掲載時のデータです。

(出典:旅行読売2024年1月号)
(Web掲載:2024年1月21日)


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