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日本刀の材料「玉鋼」を作る たたら製鉄で栄えた出雲へ(3)【日本刀に導かれ】~雲南市~

場所
> 安来市、奥出雲町、雲南市
日本刀の材料「玉鋼」を作る たたら製鉄で栄えた出雲へ(3)【日本刀に導かれ】~雲南市~

高殿内部。芸術家の岡本太郎も訪れたことがあり、ここに来るまでなぜか不機嫌だったが、この造りを見て驚きご機嫌になったという

 

たたら操業の現場「高殿」の高い天井、栗の木でできた太い梁や柱に圧倒される

日本刀の材料「玉鋼」を作る たたら製鉄で栄えた出雲へ(2)【日本刀に導かれ】~安来市・奥出雲町~から続く

玉鋼(たまはがね)の里を訪ねる旅の最後は、雲南市吉田町。鉄の歴史博物館に寄り、30分の映画「和鋼風土記」を見て、たたら操業の知恵と苦労を知る。

そして、3キロほど山に分け入った菅谷たたら山内へ。これまで復元模型や映像でしか見られなかった、たたら操業の現場「高殿」に入ると、高い天井、栗の木でできた太い梁は りや柱に圧倒された。熱や蒸気を逃がすための開閉式の屋根を設けるなど、細かな工夫もなされている。

ここでは1751年~1921年に計8643回、鉄づくりが行われたという。たたら場を所有していた鉄師(たたら製鉄の経営者)の田部(たなべ)家は、松江藩でも筆頭の鉄師で、1か所あれば1000人が暮らせる利益を生んだというたたら場を、最盛期には7か所も保有していた。

鉄師であった田部家の財力を物語る白壁土蔵群。鉄の歴史博物館からすぐにある

菅谷の高殿が再び熱気で満たされることはもうないが、片隅には砂鉄が残されていた。これが鏡のように美しく輝く日本刀に姿を変えるのかと、しみじみ見入った。今回の旅で、出雲に受け継がれてきた伝統技術の一端を垣間見たが、まだまだ知りたいこと、見たいことはある。強く美しい日本刀。どうやらその世界への扉を開けてしまったようだ。

雲南市の見どころ

(左)往時のままに修復された 「三軒長屋」(右)施設長の朝日光男さんは、この集落で生まれ育った。「子どもの頃、 高殿は遊び場でした。その 価値が認められるようになってうれしい」と話す

菅谷たたら山内
たたら操業の中心施設である高殿をはじめ、従事者の居住区などがあった一帯を「山内」と呼ぶ。ここでは高殿、長屋、元小屋、米倉などが国の重要有形民俗文化財に指定されている。
■9時~16時/月曜(祝日の場合は翌日)休/310円/松江道雲南吉田ICから6キロ/雲南市吉田町吉田4210-2/TEL:0854-74-0350

鉄の歴史博物館
たたら製鉄や鍛冶に関する道具や古文書などを展示。1969年に行われた、たたら操業の復元の様子を記録した映画も上映。たたら操業の実際がよく分かる。
■9時~16時/月曜(祝日の場合は翌日)休/520円/松江道雲南吉田ICから3キロ/雲南市吉田町吉田2533/TEL:0854-74-0043

建物は旧吉田村の医師・常松邸を改造したもの

たたら鍛冶工房でペーパーナイフ作り体験

(上左)五寸釘を600〜700度に熱する。釘はすぐに真っ赤になる。(上右)小槌で叩いて整形。熱せられた釘はさほど力を入れなくても平らになる。(下左)ペーパーグラインダーに押し当てて余計な部分を削り、仕上る (下中)錆止めを塗ってもらって完成。味わい深い自分だけの一品ができあがる。(下右)指導するのは、刀匠・小林俊司さんの弟子でもある小林憲生(のりお)さん

雲南市吉田町内のたたら鍛冶工房では、気軽にペーパーナイフ作り体験ができる。五寸釘(約15センチ)を火床で熱し、叩いて潰して平らにし、ペーパーグラインダーで形を整えて刃を付ける作業は、所要約30分。手製の土産を持ち帰れる。刀鍛冶気分とまでは言えないが、「鉄は熱いうちに打て」という言葉を実感できる。
ほかに切り出し型の小刀を作る「和鋼小刀作り体験」(体験料3万2000円、所要約4時間、要予約)も受け付けている。
■10時~15時/月曜(祝日の場合は翌日)休/体験料2000円(要予約)/松江道雲南吉田ICから5キロ/雲南市吉田町吉田892-1/TEL:0854-74-0311

「日本刀をもっとPRしたい 楽しみながら、知ってほしい」

刀匠・小林俊司さん

「健康である限り、日本刀を作り続けたい。でも最後の最後まで、納得のいく一振はできないと思いますよ」

現在、全国に180人ほどがいるとされる刀鍛冶(刀匠)の一人、奥出雲町に工房を構える小林俊司さんはそう話す。刀鍛冶は国家資格であり、刀匠資格を持つ刀鍛冶の下で5年以上修業し、実地試験として文化庁主催の「美術刀剣刀匠技術保存研修会」を修了しなくてはならない。現在52歳の小林さんは、異色の経歴の持ち主だ。弟子入りは32歳の時。一般的には高校や大学を卒業してすぐに弟子入りすることが多く、遅い方である。それまでは警察官をしていたのだが、刀鍛冶だった父の貞俊さんから突然「跡を継いでほしい」と頼まれ、人生が一変。実家に戻り、父に弟子入りした。

「弟子は無給なのです。妻と子どももいたので、我が家にとっては一大事でした」と笑うが、祖父も刀鍛冶、父は3兄弟そろって刀鍛冶というから、刀匠になることは宿命だったのか。

「修業期間中、師匠である父とは朝から晩まで、休日もいつも一緒にいました。ほかの弟子が学べないようなことも見聞きできましたね」と、振り返る。試験は年1回。小林さんの頃は、「10人ほど受験して合格したのは2、3人でしたね」という狭き門。なおかつ、刀鍛冶だけで生活ができているのは、全国で30人程度とも言われている。

小林さんは現在、奥出雲たたらと刀剣館にて日本刀鍛錬実演にも協力。「一人でも多くの人に興味を持ってもらいたい」と願う小林さんは、実演中の話術も巧みだ。「興味を感じたことから、楽しく、おかしく日本刀を知ってもらえばいい」。そう願って、今日も火の粉を浴びながら日本刀づくりと向き合っている。

文/渡辺貴由 
写真/齋藤雄輝

【モデルコース】

<1日目>
米子空港
 ↓車25キロ
和鋼博物館
 ↓車33キロ
金屋子神社
 ↓車5キロ
亀嵩温泉 玉峰山荘(泊)

<2日目>
亀嵩温泉 玉峰山荘
 ↓車15キロ
奥出雲たたらと刀剣館
 ↓車2キロ
姫のそば ゆかり庵
 ↓車33キロ
鉄の歴史博物館
 ↓車3キロ
菅谷たたら山内

※菅谷たたら山内から米子空港まで40キロ、出雲空港まで80キロ。

 


※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2024年3月号)
(Web掲載:2024年3月24日)


Writer

渡辺貴由 さん

栃木県栃木市生まれ。旅行情報誌制作に30年近く携わり、全国各地を取材。現在、月刊「旅行読売」編集部副編集長。プライベートではスケジュールに従った「旅行」より、行き当たりばったりの「旅」が好き。温泉が好きだが、硫黄泉が苦手なのが玉に瑕(きず)。自宅では愛犬チワワに癒やされる日々。

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