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日本刀の材料「玉鋼」を作る たたら製鉄で栄えた出雲へ(2)【日本刀に導かれ】~安来市・奥出雲町~

場所
> 安来市、奥出雲町、雲南市
日本刀の材料「玉鋼」を作る たたら製鉄で栄えた出雲へ(2)【日本刀に導かれ】~安来市・奥出雲町~

和鋼博物館で初めて持った日本刀は重かった

日本刀の材料「玉鋼」を作る たたら製鉄で栄えた出雲へ(1)【日本刀に導かれ】~「たたら製鉄」とは~から続く

安来(やすぎ)市の和鋼博物館にて、日本刀を初めて持った。重かった。物理的には約1キロという重量だが、緊張して全身がこわばり、心理的にはその何倍にも重く感じた。

日本刀特集を発案してから約半年。知識を詰め込むにつれて、その歴史、製法、由緒、現在をはじめ、一振(ひとふり)の刀には語り尽くせないほどの背景があることに気付かされた。そしてたどり着いたのが、日本刀の材料である玉鋼(たまはがね)。今、日本で唯一、たたら製鉄により日本刀用の玉鋼を生産しているのが島根県奥出雲町にある「日刀保(にっとうほ)たたら」だ。その様子は見学できないが、周辺の安来市、雲南市に点在する関連施設も含め、「日本刀の原点」を訪ねることにした。

前出の和鋼博物館は、たたら探訪の旅のスタートとして格好の施設。中海(なかうみ)の入り江に面した安来は、鉄の集積地、積み出し港として栄え、鉄問屋や海運問屋などが立ち並んでいたという。館内では、たたらの歴史に始まり日本刀の製法までくまなく解説。島根の鉄づくり、日本刀づくりについて、一通りの知識を得られる。たたらに用いられた250点もの道具類は、国の重要有形民俗文化財でもある。

また、実際に日本刀や玉鋼を持つこともできる。たたらの炉に風を送るための鞴(ふいご)を踏み、精巧な造りを体感できる。その鞴は、1884年製。今も当時のままに動き、技術力の高さにも感心した。

見かけ以上にずしりと重い玉鋼。輝きが美しい
館内では「ヤスキハガネ」を用いた刃物の販売コーナーもある
天秤鞴(てんびんふいご)の体験コーナー

和鋼博物館
たたらに関する総合博物館。国の重要有形民俗文化財に指定された「たたらによる和鋼生産用具」や、映像、体験などを通して、たたらや日本刀を紹介。予約をすれば案内人の解説を聞きながら見学できる(所要40分~1時間)。
■9時~16時30分/水曜(祝日の場合は翌日)休、年末年始休/310円/山陰線安来駅から徒歩15分/安来市安来町1058/TEL:0854-23-2500

しんしんと降る雪が山野を白く染め、神秘的な「奥出雲」

総合的な知識を得てから奥出雲町へ向かった。この時期、しんしんと降る雪が山野を白く染め、「奥出雲」という町名の響きが神秘的なものに感じられた。

目当ての奥出雲たたらと刀剣館は、山並みを見渡す高台に立つ。たたら炉の地下構造原寸大の模型も必見だが、できれば第2日曜か第4土曜に訪ねたい。日本刀の鍛錬実演が見られるからだ。

実演を行う刀匠は、小林俊司さん。1300度に熱した鋼を、小林さんが小槌(こづち)を、弟子が大槌を交互に振るって叩き、延ばす。10回ずつほど叩くと、再び熱する。まさに「鉄は熱いうちに打て」。この作業を地道に繰り返し、鋼を鍛えていくのだ。吹き上がる炎が発する轟音、リズミカルな槌音、飛び散る火花、木炭の匂い……。その音や匂いは、古も今もこれからも、きっと変わらないことだろう。

木炭を燃やし真っ赤に熱せられた鋼
2人での鍛錬は槌を打つタイミングが重要。「相槌を打つ」という言葉もこの作業から生まれたとされる
神々の存在を信じたくなるような奥出雲町の風景

奥出雲たたらと刀剣館
奥出雲町に伝わるたたら製鉄について、総合的に展示・紹介。第2日曜と第4土曜に日本刀鍛錬実演を見学できる(10時~、13時~、要予約。都合により休止の場合あり)。
■9時30分~16時30分/月曜(祝日の場合は翌日)休、年末年始休/530円/木次線出雲横田駅からタクシー5分/奥出雲町横田1380-1/TEL:0854-52-2770

安来市、奥出雲町の見どころと温泉、グルメ

実際に使われた天秤鞴と炉も展示

金屋子神社
奥出雲町との境界近くにあり、シラサギに乗って降り立ち、鉄づくりを教えたという金屋子神をまつる。現在の社殿は1858年の火災の後に建立されたもの。金屋子神が降り立ったのは、奥宮の辺りという。
■拝観自由/山陰道安来ICから35キロ/安来市広瀬町西比田/TEL:080-2891-8978

亀嵩温泉 玉峰山荘
露天風呂や大浴場から奥出雲の山々を眺めながらくつろげる。客室は和室を中心に20室。日帰り入浴700円。2月12日〜29日はメンテナンスのため休館。
■1泊2食1万5860円~/米子空港から60キロ/奥出雲町亀嵩3609-1/TEL:0854-57-0800

姫のそば ゆかり庵
在来種の横田小そばを使った十割そばが美味。そばの風味が強く、甘みもある。「横田小そばのそば御膳」1250円(写真)。そば湯のとろみがおいしい「釜あげそば」1080円もおすすめ。
■11時~14時30分/祝日を除く火曜・第3水曜休/木次線出雲横田駅からタクシー5分/奥出雲町稲原2128-1 稲田神社社務所内/TEL:0854-52-2560

文/渡辺貴由 
写真/齋藤雄輝

日本刀の材料「玉鋼」を作る たたら製鉄で栄えた出雲へ(3)【日本刀に導かれ】~雲南市~へ続く(3/24公開)

【モデルコース】

<1日目>
米子空港
 ↓車25キロ
和鋼博物館
 ↓車33キロ
金屋子神社
 ↓車5キロ
亀嵩温泉 玉峰山荘(泊)

<2日目>
亀嵩温泉 玉峰山荘
 ↓車15キロ
奥出雲たたらと刀剣館
 ↓車2キロ
姫のそば ゆかり庵
 ↓車33キロ
鉄の歴史博物館
 ↓車3キロ
菅谷たたら山内

※菅谷たたら山内から米子空港まで40キロ、出雲空港まで80キロ。


※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2024年3月号)
(Web掲載:2024年3月23日)


Writer

渡辺貴由 さん

栃木県栃木市生まれ。旅行情報誌制作に30年近く携わり、全国各地を取材。現在、月刊「旅行読売」編集部副編集長。プライベートではスケジュールに従った「旅行」より、行き当たりばったりの「旅」が好き。温泉が好きだが、硫黄泉が苦手なのが玉に瑕(きず)。自宅では愛犬チワワに癒やされる日々。

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