【港町食堂】南伊勢のマダイとマグロ 脂がのる魚を地元の料理で(1)
(左)寶鯛(たからたい)の定食の内容は季節や入荷材料により変わる。鯛だしのひやむぎと鯛と薬味をのせたお稲荷さんなども出た(右)「我が家の日々の料理が店名の由来」と清美さん
食べる直前にさばくタイは絶品 ~寶鯛の食堂 日々(迫間浦)~
三重県の南西部、雄大なリアス海岸が続く南伊勢町は、熊野灘(くまのなだ)の黒潮の恩恵を受ける好漁場として知られている。1970年頃から魚の養殖を行っており、エサの改良などから味が良くなったという。とれたて新鮮なマダイやマグロの料理を扱うおいしい食堂が、漁港が10か所ある町内に点在していると聞いて訪れた。
町東部に位置する迫間浦(はさまうら)は、50年以上前からマダイの養殖を始め、「タイの里」と呼ばれる小さな港町だ。船着き場から車で約5分、国道沿いの丘に、大下弘和さん一家が営む「寶鯛(たからたい)の食堂 日々(にちにち)」がある。
大下さんは迫間浦でタイを養殖して35年。エサや育て方を試行錯誤し、健康に育てることが一番と気付き、毎日魚を観察しながら給餌の時間や量を変えるなどして大切に育てているという。
そのおいしさに驚いたのが妻の清美さんだ。「漁業にかかわりのない家から嫁いだので気付いたのだと思います。今の養殖魚は昔のような臭みも脂っぽさもありません。漁師さんも『天然ものは味にばらつきがあるが、養殖は品質が安定していてうまい』と言うほど。特にとりたて切りたての味は格別です」と語る。
大下家では、養殖のタイを西京漬けなどに加工・販売する事業を10年ほど前に始めた。その後、より新鮮なタイを食べてほしいと食堂を持ちたくなったが、当時は人手が足りずかなわなかったという。しかし一昨年、関西で料理人をしていた息子の航平さんが家業を継ぐためにUターンし、清美さんの妹も土・日曜なら手伝えると人手のめどがついた。そして昨年1月に自宅を改装し、8席の小さな食堂をオープン(土・日曜限定)。清美さんの夢が実現したのだ。
メニューは2000円の定食1種だけで、献立は大下家の日々の食卓に上る家庭料理の中で家族の評判の良いものを選んだ。「ほかの場所ではなかなか食べられないおいしい鯛料理だと気付いたから」と清美さん。
取材の日は、タイを使った炙(あぶ)り鯛の薬味寿司とお頭の煮付け、昆布とタイの中骨でだしを取ったアオサのみそ汁、タイのユズみそをのせたふろふき大根、タイと地元産ヒジキの和え物、近郊産の小麦と卵で作るシフォンケーキが出た。店が2部制で2日前までに予約が必要なのは、当日朝にタイを水揚げし、食べる直前にさばくため。メインの炙り鯛の薬味寿司は、とびきり新鮮なタイの身の透明度に驚き、口にしてもっちりとした食感と上品な甘みとうまみ、皮の香ばしさに、さらに驚いた。
炙り鯛の薬味寿司をテイクアウトして、港で海を見ながら食べてもいい(2日前までに要予約1300円)。
文/児島奈美 写真/宮川 透
【港町食堂】南伊勢のマダイとマグロ 脂がのる魚を地元の料理で(2)へ続く(3/28公開)
立ち寄りたい見どころ&店
迫間浦で貝や海苔の養殖・直売所を家族で営む。栄養豊富な黒潮の恵みを受けて育つカキやアッパ貝は、味が濃厚と評判。カキは国道260号沿いの自動販売機(9時~18時頃/不定休)でも購入できる。
■10時~17時/不定休/伊勢道玉城ICから県道719号経由25キロ/TEL0599-64-3115
営業:食堂は土・日曜11時30分〜、13時〜の2部制、炙り鯛の薬味寿司のテイクアウトは11時30分〜18時(2日前までに要予約)/月曜~水曜休
交通:近鉄志摩線志摩磯部駅から徒歩7分の磯部バスセンターからバス20分、五ヶ所でバスに乗り換え45分、南海体育館前下車徒歩8分/伊勢道玉城ICから県道719号経由27キロ
住所:南伊勢町迫間浦1188-19
問い合わせ:TEL090-7850-7557
※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2024年3月号)
(Web掲載:2024年3月27日)