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【伊東潤の 英雄たちを旅する】第2回 徳川家康と浜松

場所
  • 国内
  • > 北陸・中部・信越
  • > 静岡県
> 浜松市
【伊東潤の 英雄たちを旅する】第2回 徳川家康と浜松

日本で唯一湖の上を渡る「かんざんじロープウェイ」。浜名湖かんざんじ温泉と大草山の展望台を結ぶ

 

プロフィール
伊東 潤(いとう じゅん)

1960年、神奈川県横浜市生まれ。歴史作家。2013年、『国を蹴った男』で吉川英治文学新人賞、『巨鯨の海』で山田風太郎賞を受賞。過去5回、直木賞候補となる。近著に、敗れ去った日本史の英雄たち25人の「敗因」に焦点を当て歴史の真相に迫るエッセー『敗者烈伝』(実業之日本社)などがある。

家康が17年間本拠地としていた浜松

徳川家康ゆかりの地は多い。75年という当時としては長大な家康の生涯ゆえだが、とくに印象深いのが、桶狭間(おけはざま)、掛川、長篠(ながしの)・設楽原(したらがはら)、小牧・長久手(ながくて)、関ヶ原といった古戦場だろう。そうした中でも武田信玄の手玉に取られた三方ヶ原(みかたがはら)の戦いは、家康にとって忘れ難いものとなったはずだ。

家康はこの時の敗戦を忘れないように、戦が終わってすぐ、「しかみ像」と呼ばれる肖像画を描かせ、床の間に飾っていたという説もある。

そんな家康は29歳から45歳までの17年間、三方ヶ原に近い浜松を本拠としていた。人生で最も活動的な時期を浜松で過ごした家康には、前述した三方ヶ原の戦いや正室の築山殿(つきやまどの)と嫡男(ちゃくなん)の信康を殺さざるを得なかった苦渋の記憶もあったろうが、おそらく晩年、浜松時代のことを懐かしく思い出したに違いない。

浜松城公園の「若き日の徳川家康公像」

さて、浜松といえば鰻(うなぎ)だが、鰻を焼いて食べるという習慣は古くからあり、江戸時代には江戸で大流行したという。そうしたことから養殖しようとなり、1891(明治24)年、日本で初めての鰻の養殖が浜松で始められた。気候温暖ということもあってか、この事業は大成功を収め、浜松は鰻の養殖の本場となる。

そんな浜松鰻を育む浜名湖こそ、名勝と呼ぶにふさわしい絶景の地だ。家康も幾度となく浜名湖周辺で鷹(たか)狩を行っていた記録があり、その風景を愛していたに違いない。

私は1980年代から90年代、舘山寺(かんざんじ)はもとより、同じく浜松近郊の舞阪(まいさか)や御前崎を幾度も訪れ、ウインドサーフィンを楽しんでいた。浜松周辺の海は、風がよく吹くので大のお気に入りだった。

家康によって創築された浜松城は必見

野面積(のづらづみ)の天守台が残る浜松城。天守は1958 年に再建された復興天守

鰻から浜名湖へと話題はそれたが、浜松といえば浜松城は必見だ。

この城は1570(元亀元)年、家康によって創築された。というのもこの頃、武田信玄の圧力が強まり、家康は岡崎城から勢力範囲の東端に位置する浜松に本拠を移し、そこに要害となり得る城を築くことにしたのだ。その後、予想通り信玄の侵攻があり、家康は浜松城から三方ヶ原に打って出て惨敗を喫した。

浜松城の周辺も見どころ満載だ。三方ヶ原古戦場は古戦場碑が残るだけだが、この台地上で大合戦が行われたかと思うと感慨もひとしおだ。また三方ヶ原の戦いの前哨戦が行われた天竜川の河畔の二俣城にも、ぜひ行ってほしい。見事な石垣の天守台が残っている。

三方ヶ原古戦場碑
家康が武田氏と攻防を繰り広げた二俣城跡は国の史跡。家康の嫡男・信康が、父の命で切腹した悲劇の地

さらに三方ヶ原の戦いで徳川勢が武田勢に一矢報いたという犀ヶ崖古戦場跡に行くと、浜松の北を守っていたと言われる大地の亀裂が望める。

そのほかにも浜松には、家康ゆかりの寺社が一日では回りきれないほどある。

また浜松市博物館には、家康関連の史料が豊富な上に浜松城下のジオラマまであるので、ぜひ寄ってほしい。家康時代の浜松を知れば、散策もさらに面白くなる。

浜松に行ったら、様々な場所から浜名湖を眺め、鰻を食べていただきたい。きっと天下人の気分が味わえるだろう。

文/伊東潤

写真協力/浜松市

浜松グルメといえば鰻とギョーザ

英雄メモ🖋

徳川家康(とくがわ いえやす)[1542~1616]

江戸幕府初代将軍。三河の小大名の家に生まれ、幼年時代は隣国の大名今川氏の人質となって駿府で過ごす。桶狭間の戦いののち今川氏から独立し、織田信長と同盟して武田氏と争い領地を拡大。本能寺の変の後は、豊臣秀吉と和睦。1590年、関東に移って250万石の大大名となり、秀吉の死後は関ヶ原の戦いに勝って天下の実権を握り、将軍となって江戸幕府を開いた。駿府に引退してからも大御所として実権を手放さず、大坂の陣で豊臣氏を滅ぼし、幕府の基礎を固めた。


[浜松城公園への交通]
東海道新幹線浜松駅からバス5分、市役所南下車徒歩6分

[観光の問い合わせ]
TEL:053-452-1634(浜松市観光インフォメーションセンター

※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2023年3月号)
(Web掲載:2024年4月9日)


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