【家康の城へ】歴史作家・伊東潤さんと静岡駅から歩く駿府城(1)
1996年に復元された東御門の前の橋を渡る伊東さん。左に89年復元の巽櫓が続く。どちらも木造本瓦葺きで、内部は資料館になっている
プロフィール
伊東 潤(いとう じゅん)
1960年、神奈川県横浜市生まれ。歴史作家。2007年に『武田家滅亡』でデビュー。2013年、『国を殴った男』で吉川英治文学新人賞、『巨鯨の海』で山田風太郎賞を受賞。過去5回、直木賞候補となる。近著に、最新史料を駆使し徳川家康と毛利輝元2人の視点で関ケ原の戦いを描く戦国歴史巨編『天下大乱』のほか、『囚われの山』『英雄たちの経営力』などがある。
大御所時代から少年時代まで家康の人生をさかのぼる旅
駿河(するが)湾に面した温暖な気候で知られ、江戸時代までは「駿府(すんぷ)」という地名で呼ばれていた静岡。駿河国の国府(古代の政治施設)が置かれたことが地名の由来だ。駿府は江戸幕府を開府した徳川家康と関係が深く、家康は幼少期から青年期までの今川家の人質時代、豊臣秀吉から関東移封(いほう)を命じられるまでの壮年時代、そして江戸開府後、将軍職を秀忠に譲って以降の大御所(おおごしょ)時代と、実に3度駿府に居している。
「天下人にのぼり詰めた家康の人格形成に、駿府という地がどう関わったかを感じたいですね」と旅の意気込みを語るのは歴史作家の伊東潤さん。最近、徳川家康と毛利輝元の2人の視点から関ヶ原の戦いを描いた『天下大乱』、大坂の陣を題材にした『一睡の夢 家康と淀殿』を立て続けに上梓(じょうし)し、「家康どっぷり」な生活だったという。
ある秋晴れの日、伊東さんと家康ゆかりの地を訪ね歩いた。静岡駅を出発し、まずは、市街地の中心に位置する駿府城公園へ向かった。復元された東御門を通って城内に入ると、平日にもかかわらず、学生や家族連れ、休憩をとるサラリーマンなどが行き交い、にぎわっている。「お城は郷土の象徴であり誇りです。現代的な都市の中に緑あふれる城跡があると、なごみますよね」と語る伊東さんが、駿府城公園で最も楽しみにしていたのが、発掘された天守台だ。
将軍職を譲り大御所となった家康は、1607(慶長12)年に居住地を駿府に移した。移住した理由は幼い頃から慣れ親しんだ土地であることに加え、駿府は東海道沿いに位置しているため江戸へ行き来する大名も立ち寄りやすく、当時まだ大坂にあった豊臣家を牽制(けんせい)する狙いもあった。家康の移住に際して駿府城と城下町は大規模に造成され、城には当時日本最大級の天守がそびえ立ったが、江戸前期に焼失し、残った天守台も明治以降、この地に陸軍の兵営が置かれるに先立って崩され、堀は埋め立てられた。
この大御所時代の天守台が近年発掘され、調査の結果、日本一大きな天守台だったことが判明したのだ。驚きはそれだけではなかった。大御所時代の天守台の下から、戦国時代末期の天正期(16世紀末)の天守台が発見されたのだ。家康は1590(天正18)年に関東に移るまで駿府城を居城としており、発見された天正期の天守台の上に、大御所時代とは別の天守が立っていたと考えられる。
文/滝沢弘康(かみゆ歴史編集部) 写真/齋藤雄輝ほか
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静岡 立ち寄りたい店
静岡駅のアスティ東館の飲食店街にある、創業50年の老舗居酒屋の系列店。1998年オープン。名物の静岡おでんは、牛すじ肉や黒はんぺんなどの具材のうまみが混ざり合うだしを継ぎ足して使い、種の種類も豊富。ランチのおでん定食1100円のほか、マグロしらす丼1100円、清水マグロ丼980円など。駅の近くで手軽に静岡のご当地料理を味わうのにおすすめ。
■11時~21時30分(土・日曜、祝日は~20時30分)/年末年始休/東海道新幹線静岡駅直結/TEL:054-202-1500
※掲載時のデータです。
■御城印:あり(300円)
■入城:駿府城公園は入園自由(東御門・巽櫓、坤〈ひつじさる〉櫓、紅葉山庭園は9時~16時/月曜休〈祝日の場合は営業〉、12月29日〜1月3日休/東御門・巽櫓は200円)
■交通:東海道新幹線静岡駅から徒歩17分、またはタクシー5分
■TEL:054-251-0016(駿府城公園二ノ丸施設管理事務所)
家康メモ
大御所時代の家康の居城
元々駿府には駿河国守護の今川氏の館があり、徳川家康(幼名・竹千代)はこの地で数え8歳から19歳まで人質として過ごした。一時、武田氏に侵攻されるも、滅亡後は家康が領有し、近世城郭を築いた。1590(天正18)年、豊臣秀吉の命で江戸城に移った家康は、江戸時代に入ると将軍職を秀忠に譲って駿府に戻り、1607(慶長12)年に城郭を大改修。大御所として実権を握り、駿府は江戸と並ぶ政治経済の中心として栄えた。
(出典:旅行読売2023年2月号)
(ウェブ掲載2023年7月21日)