悲運の皇子、惟喬親王の足跡をたどる
比叡山の麓、四方を山に囲まれた大原集落
四方を山に囲まれた、のどかな田園風景が広がる大原には、三千院や寂光院など有名な寺院が点在する。毎週日曜朝6時から「ふれあい朝市」を開催する「里の駅大原」や、大原の野菜をふんだんに使った古民家レストラン「わっぱ堂」、草木染めの糸や布物を販売するほか、染めや織りの体験ができる「大原工房」など、散策にはぴったりのスポットも多い。
大原ののどかな山里を見下ろす丘の一番上にある広々とした田んぼは、「御所田(ごしょでん)」と呼ばれ、惟喬(これたか)親王の住まいがあったといわれる場所だ。親王は第55代文徳(もんとく)天皇の第1皇子だが、時の権力争いによって皇位につけず、後に仏門に入って大原の地に隠棲した人物。新緑が美しいこの季節は、親王の足跡をたどりながら、賀茂川の源流に点在する山里を旅してみたい。
大原の西方、北区にある雲ケ畑(くもがはた)には、親王ゆかりの史跡がある。高雲寺は親王が閑居した高雲の宮跡と伝わる。寺のある地区で、毎年8月24日に行われる「松上げ」は、松明(たいまつ)を燃やして文字を浮かび上がらせる行事。親王を慰めるために村人が行っていたとされ、一度途絶えたが、明治時代に復活した。
高雲寺からさらに賀茂川上流に向かうと、親王を祀る惟喬神社がある。親王に付き従った従者や村人が、親王の徳を永遠に祀るために創建。秋には親王を偲ぶ祭りが行われる。
さらに西にある小野郷の小野・大森集落は、ホタルが舞い、北山杉が美しい山里。集落の住民は供御人(くごにん)として、天皇や皇族などに木材、炭、松明などを貢納していた。大森集落にある安楽寺は親王創建と伝わり、現在は無住のため地域で管理しているという。病身でこの地に移り住んだ親王だが、養生かなわず、約50年の生涯を閉じた。
惟喬親王の亡骸は、静かな大原の森の中に葬られた。天台声明(しょうみょう)の聖地・勝林院(しょうりんいん)では2016年、135年ぶりに親王を偲ぶ法要が復活し、以来、毎年10月10日に大原の有志によって法要が行われている。
京都浪漫悠久の物語「新緑の大原を歩く~悲運の皇子伝説を訪ねて~」
2024年5月13日(月) よる8時~8時53分 BS11にて放送
京都画報 テーマ「京のおあつらえ(仮)」
出演:常盤貴子 2024年5月8日(水)よる8時~8時53分 ※内容は変更の場合あり
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(出典:「旅行読売」2024年6月号)
(Web掲載:2024年4月30日)