コラム 旅の思い出と感動を伝えるお土産菓子【新定番 みやげ菓子】
「蜜屋」の「乙女のひととき ドライフルーツどら焼き」
ひらいわ・りお
大学で史学を専攻し、卒業後はマーケティング会社でメーカーの調査や販売促進を経験。フードコーディネーターなどの資格を取得し、独立。スイーツ情報を発信する一方で、製菓専門学校で菓子について学ぶ。各地の和洋菓子を食べ歩き、テレビ、ラジオ、雑誌、ネットなどで活躍。
かつて旅先で買い求めるお土産菓子と言えば、常温で持ち歩けて日持ちがし、個包装で多く入っているものが重宝された。それが人間関係を円滑にするものとされてきたところもある。近年は、職場へのお土産を不要と考える人も増えている。コロナ禍では、出張や旅行を控える傾向とともに、リモートワークの導入も進み、お土産を渡す機会が減った。
一方で、オンライン販売を取り入れる菓子店が急増。地方の物産を都心で扱うアンテナショップもにぎわい、地方の銘菓が手軽に買える時代となった。だからこそ、旅の思い出と結び付いた品や、現地に足を運んで出合った品は、その背景も含めて贈る相手に披露したくなるのだ。
SNSなどの普及で、本店限定品や地域の行事にまつわるお菓子など、以前なら知る人ぞ知る品だった情報も把握しやすくなった。そういう品は日持ちがしなかったり、「一棹(ひとさお)」売りなどで配りにくかったりもするが、その希少価値がむしろ喜ばれることもある。
伝統ある店舗の新商品もヒット
老舗も新たな挑戦をしている。1838年から続く富山県高岡市の「大野屋」が2012年に発売した「高岡ラムネ」は、富山県産のコシヒカリを素材に、伝統の木型と職人の技術を駆使した新感覚の干菓子だ。その一種、地元産りんご味の「御車山(みくるまやま)」は、ユネスコ無形文化遺産に登録された高岡の祭り「御車山」にちなんだ木型を使って作られ、包装紙はその車輪をデザインしている。都内のアンテナショップや百貨店でも扱っているが、現地を訪れて祭りを見たらきっとお土産にしたくなるだろう。
広島県呉(くれ)市の「蜜屋」は、1951年の創業以来、「蜜饅頭(まんじゅう)」など蜂蜜を使った菓子が主力商品だった。2017年夏に発売した「乙女のひととき ドライフルーツどら焼き」は、宮島産の蜂蜜漬けドライフルーツと胡桃(くるみ)、白小豆の餡(あん)を挟んだ品。レトロモダンなパッケージも目を引く。広島市内に店舗がある別ブランドの「旬月神楽(しゅんげつかぐら)」や蜂蜜とレモンを使った白餡入り饅頭「檸檬(れもん)の花」もヒット。地元素材を積極的に使い定番品を進化させている。
看板商品をブラッシュアップした例としては、北海道札幌市の「札幌千秋庵」が、22年10月、創業101年目でリブランドした「ノースマン」も話題だ。長年愛されてきた餡入りパイに北海道産生クリームを入れた「生ノースマン」を開発。大丸札幌店に専門店を設けて売り出したところ、行列ができる大ヒット商品に。現在は新千歳空港でも人気トップクラスのお土産菓子として知られ、札幌市のふるさと納税返礼品にもなっている。
現代のお土産菓子は、以前と比べてよりプライベートな場でやり取りされることが多くなり、土地の魅力や、なぜ選んだのかという物語、感動を伝えるツールとなっている。すなわち、そこに人の生き方そのものが表れると言ってもよいのだ。
文/平岩理緒(スイーツジャーナリスト)
※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(出展:「旅行読売」2024年5月号)
(Web掲載:2024年5月18日)