寺田直子 泣くためにひとり旅に出よう(1)【泣けるひとり旅】
オフシーズンの南の島で「幸せな孤独感」に浸る
てらだ・なおこ
トラベルジャーナリスト。東京都出身。旅行会社勤務を経て独立。旅歴40年で訪れた国は約100か国。新聞、雑誌、ウェブなどに寄稿し、『泣くために旅に出よう』(実業之日本社)など著書も多数。豊富な取材経験を生かし、インバウンドを含め地方の活性化、観光立国化にも尽力する。
何気ない風景とのほんの一瞬の出会い
旅に出ると泣きたくなる瞬間ってありませんか? 私の場合、飛行機や電車、バスなど移動中の風景にグッとこみ上げてくることがあります。高度1万メートルから眼下に望む山々や市街地、車窓の外を流れていく通りや家並み。何気ない風景とのほんの一瞬の出会い。そこには私が知ることのない多くの暮らしや人生があるのだという刹那的な思いが旅情の相乗効果もあってか、せつなさと共にあふれ出してきます。ひとり旅だとその思いはさらに加速し、じわりと孤独感が増幅され、鼻の奥がツンとなってきます。それは、涙がこぼれる一歩手前の通過儀礼のようなもの。
写真家の故・星野道夫氏はこのように書いています。
「風景とは言いかえれば、人の思い出の歴史のような気もする。風景を眺めているようで、多くの場合、私たちは自分自身をも含めた誰かを思い出しているのではないか」
あっという間に視界から消え去っていく風景には誰かの記憶を懐かしみ、慈しむような感情を揺さぶるものがあると思っています。同じような景色を見た人との記憶や、そのとき交わした会話。もう二度と見ることのない笑顔、最後の言葉。
泣くという行為は「心のデトックス」だといわれています。傷ついたり、怒ったりした場合の涙と異なり、感動で流す涙は「情動の涙」と呼ばれ、副交感神経に作用してストレスを軽減しリラックスさせる効果があるといわれています。車窓から眺める風景に泣きそうになるのも、悲しいからではなくこれまで重ねてきた人生を振り返り、愛(いと)おしく思うからこそ。そして、雄大な大自然やドラマチックな景色に出会うことで流れるのも「情動の涙」。非日常の旅先では、心に響く感動的な体験が美しい涙をこぼすことを許してくれます。
文・写真/寺田直子
寺田直子 泣くためにひとり旅に出よう(2)【泣けるひとり旅】に続く(6/4公開)
泣けるスポット
(出典:「旅行読売」2024年5月号)
(Web掲載:2024年6月3日)