温泉宿やトイレにアート!? 群馬県中之条町が進化中
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山形敦子さんの作品が飾られている「山ばと」のファミリールーム
中之条ビエンナーレをきっかけにしたさまざまな変化
群馬県北西部の山地にあり、四万(しま)や沢渡(さわたり)といった歴史ある温泉地が点在する中之条町。中之条ガーデンズでは春と秋の400種1000本のバラを中心に、ハナモモや藤のほか、さまざまな山野草が季節ごとに彩る「花と湯の町」だ。
そんな町にアートが新たな魅力として根付き始めている。きっかけは2007年に始まった国際現代芸術祭「中之条ビエンナーレ」。2023年まで隔年で秋に開催され、2025年に第10回が予定されている。
商店街や温泉街、古民家などを会場に、100組を超えるアーティストが作品を展示する。約1か月の会期中アーティストは長期滞在し、鑑賞者も町を周遊することで中之条の里山文化や自然に触れることができる。
とはいえ、初めからアートが町に受け入れられたわけではなく、とまどう住民が多かったという。現代アートに馴染みのない住民にとって理解しがたく、会期が終了すると作品が撤去されてしまうため、親しみを感じることは難しかった。
そこで四万温泉の宿「山ばと」を経営する山口良子さんは「旅館という道具を使って何かできないか」と考えた。「山ばと」は温泉街の最奥、日向見地区にある部屋数7室の小さな湯宿。客室の一部を改装する際、アーティストのコンセプトルームにできないだろうかと考え、設計士に相談した。その結果、町の移住・定住コーディネーターの村上久美子さんを介して、数人のアーティストを紹介してもらった。山口さんは「中之条」をテーマに、ツインルームは「インパクトがあって元気になれる」、ファミリールームは「家族や女子旅でゆったりできる」イメージで2組のアーティストに制作を依頼した。
ツインルームの作品を制作した男女二人組のCLEMOMO(クレモモ)さんは「宿名の山ばとがつがいであることから、“似ている人”をイメージして制作しました。背景の壁に使った素材は廃材を活用しています」と説明する。ファミリールームの作品を制作した山形敦子さんは「四万の動物をモチーフにして、夜や朝も見てもらえる前提で制作しました。宿に設置する作品ならではのコンセプトです。かつて使われていた養蚕の道具を使った作品もあります」と意図を語る。
CLEMOMOさん、山形敦子さんはともに中之条ビエンナーレに出品しているアーティストなので、いわば常設の作品が温泉宿に展示されているようなもの。「ほかの温泉地にはない楽しみ方ができるはず」と山口さんは期待を込めて言う。
四万温泉の入り口に2024年5月、OUKETSU TERRACE(オウケツテラス)がオープンした。近くを流れる四万川の景勝地である甌穴にちなんでいて、そば店が入るほか、ギャラリーを併設しているのが特徴。驚くのはトイレに石の彫刻が飾られていること。中之条ビエンナーレ出品作家で石工の斎木三男さんの作品で、独立した個室に異なる作品が便座と向き合うように置かれている。
中之条ビエンナーレは隔年開催のため、非開催年にはアートイベントが行われている。現在開催中(2024年6月15日~23日)の「アートフェア中之条2024」は、47組のアーティストの作品を展示するだけでなく、来場者が作品を購入できる見本市となっている。アーティストの露出機会を増やすとともに、収入にも繋げようとするものだ。
CLEMOMOさんのように中之条町に移住して制作に取り組むアーティストが増えてきたという。同町の文化や自然をモチーフにしたアート作品に町内で触れることは、旅の楽しみの一つとなり得る。20年近くかけて観光コンテンツの一つに育ってきたアートが、今後どのような変化をもたらすだろうか。