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【ひなびた温泉研究家 岩本薫の温泉は人生の句読点だ!】第2回 不老閣<山梨県>

場所
> 北杜市
【ひなびた温泉研究家 岩本薫の温泉は人生の句読点だ!】第2回 不老閣<山梨県>

これがウワサの霊泉。部屋の奥にいきなり巨大な岩盤がむき出しになっていて、洞窟のような岩風呂がある。源泉は岩盤の底から湧く足元湧出湯。頭上の巨大な岩からもラジウムが放出されているという、まさに驚異のラジウムダブル攻撃状態の温泉なのだ

 

  

プロフィール
岩本薫(いわもとかおる)

1963年東京生まれ。温泉研究家、作家、エッセイスト。温泉研究家といってもひなびた温泉にしか興味がない偏愛志向。主な著書に『もう、ひなびた温泉しか愛せない』『つげ義春が夢見た、ひなびた温泉の甘美な世界』『ヘンな名湯』『もっとヘンな名湯』(以上、みらいパブリッシング)『ひなびた温泉パラダイス』(山と溪谷社)等。メディアにも多数出演。ひなびた温泉マニアのグループ「ひなびた温泉研究所」のショチョーでもある。

あれ? もしかしてチャクラ開いてます?

夏だ! 暑いぞ! プールいこー!

フツーはそうかもしれない。でも、温泉マニアは違う。

夏だ! 暑いぞ! 温泉いこー!なのである。

なに? このクソ暑いのに熱い温泉つかるわけ? いやいや、さすがに温泉マニアだって暑い日に熱い温泉はキツイっすよ。そーじゃなくて、冷たい温泉っていうのがあるんだなぁ。それが暑い日にめっちゃ気持ちいい。しかも冷たくても温泉だから、温泉ならではの浴感や効果が期待できる。こりゃあ、やっぱもう、暑いぞ! 温泉いこー! なのである。

山梨県といえば武田信玄の隠し湯が点在していることで有名だけれども、その中でもひときわ霊験あらたかと、まことしやかに伝わってきた霊泉が増富温泉郷にある。ま、昔は温泉の効能を神仏の力によるものともしてきたわけですからね。で、そのウワサの霊泉が夏にサイコーな冷たい温泉だったりするのだ。

その霊泉は増富温泉郷の老舗旅館である不老閣の裏山にあった。ちょっとした山道を上り、ちょうど息が切れてくるぐらいのところで小さな小屋が見えた。素朴な、いかにも小屋っていう感じの建物。なかなかグッとくるシチュエーションだ。

戸口に立つと、中からあきらかにフツーではない祝詞のような声がゴニョゴニョと聞こえてきた。怪しい。ちょっとひるんだけど、なんせウワサの霊泉なのだ。ふさわしい。いや、これ以上ないサイコーのBGMではないか! 怪しさサイコー! と、つよがりながら扉を開けて中へと入ってみた……

不老閣の裏山を5分ほど登るとこんな小屋が現れる。こんな素朴な小屋であるほうが“霊験あらたかな霊泉感”がある

神仏の力、キター!!!!

小屋の中は三つの部屋に分かれていた。脱衣所。温かい加温浴槽がある部屋。そしてウワサの霊泉がある部屋。で、そこがなんとも異様な空間だった。まず目に飛び込んできたのが巨大な岩石だった。よく見るとその巨大な岩石の下に狭く薄暗い空間がある。さらによく見るとなんとそこは湯船になっている。ちょっとした洞窟のような岩風呂だ。そしてそんなインパクト絶大な部屋の傍らには祭壇のような立派な神棚があって、そこでおじさんが一心不乱に祝詞をあげていた。見たところ常連客のようである。

それにしてもスゴい。風呂というよりは巨大な岩盤に穿(うが)かれた異界の入り口といった感じだ。ここに入るわけかぁ……。

覚悟を決めて、まずは加温浴槽につかってカラダを温めて、それから再びあの異界の入り口みたいな部屋へと戻って、岩風呂におずおずと我が身を沈める……。冷た! 泉温は約20度! で、でも、気持ちいい!

祝詞のおじさんはいつの間にかいなくなり、あたりはシンとしていた。うん、いーじゃないの。神聖な霊泉にふさわしい静けさだ。

変化はジワリと訪れた。冷たい湯につかっているうちにカラダの中心がじんわりと温まってきた。なんだなんだ? このフシギな感じは。カラダの中で何かが起きてる……。

えーと、チャクラっつーんだっけ? よーわからんけど、たぶんオレのソレが今、開いている! ホント、開いているんだってば……。

ミトコンドリアが反応してる

え〜、これが10数年前に初めて不老閣の岩風呂につかった時のこと。まさしく忘れられない入浴体験となった。あのときボクのチャクラは本当に開いていたのか? ていうか、そもそもチャクラってなんなのよ?知らんがな。そんなもん!

いや、でも、今ならわかるんだなぁ。ボクのカラダの中で起こっていたことが。

実は増富温泉は世界有数のラジウム泉だったりする。ラジウム泉とは放射能泉のことで、そう、放射能が含まれた温泉なんですね。マジ? そんなのにつかって大丈夫なの?って思うかもしれないけれど、微量であれば大丈夫なんです。むしろ、カラダにはいいんだなぁ。

我々のカラダは37兆個の細胞でできているわけだけど、そのひとつひとつの細胞の中にたくさんのミトコンドリアという小器官が存在しているんです。それらのミトコンドリアさんたちが何をしているのかっていうと、細胞が生きていくためのエネルギーをセッセとつくっているんですね。で、ここが話のキモなんだけど、そのエネルギーをつくるのに放射能による刺激を必要としている。逆にいうならば自然界に存在する放射能を利用してエネルギーをつくっているんですね。

つまり、ラジウム泉はこのミトコンドリアさんたちの働きを通して細胞を元気にしているわけで、末期がんの人がラジウム泉でがんを克服したなんて話も聞きますよね? きっと細胞が元気になることでカラダ本来の免疫システムがパワーアップしているんでしょうね。

以来、ボクも夏や残暑のシーズンに増富温泉郷でプチ湯治することが楽しみになった。いや、ホント、たった1泊でもカラダがシャキッとするんだからねぇ。きっとミトコンドリアさんたちが我が細胞の中でウヒヒヒと反応したんだなぁって。

え? けっきょくチャクラはどーなったって……? 知らんがな。そんなもん!

文・写真/岩本薫

今月のひなびた温泉

不老閣(山梨・増富温泉)
◎料金:岩風呂は宿泊者専用。1泊2食1万3350円~、素泊まり7850円~
◎泉質:含放射能─ナトリウム─塩化物冷鉱泉、ナトリウム─塩化物泉など
◎アクセス:中央線韮崎駅からバス50分、増富温泉郷下車すぐ/中央道須玉ICから18キロ
◎住所:山梨県北杜市須玉町小尾6672
◎TEL:0551-45-0311
公式サイトはこちら


※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2023年9月号)
(Web掲載:2024年8月20日)

Writer

岩本 薫 さん

温泉本作家。ひなびた温泉研究所ショチョー。昔ながらのひなびた温泉の魅力を今に伝える執筆活動にいそしむ。目指すは温泉界の吉田類。著書に『日本百ひな泉』『ひなびた温泉パラダイス』『ヘンな名湯』など。

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