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【ひなびた温泉研究家 岩本薫の温泉は人生の句読点だ!】名物「おっぱい風呂」とは? 白川屋 <新潟・松之山温泉>

場所
  • 国内
  • > 北陸・中部・信越
  • > 新潟県
> 十日町市
【ひなびた温泉研究家 岩本薫の温泉は人生の句読点だ!】名物「おっぱい風呂」とは? 白川屋 <新潟・松之山温泉>

見よ! その目に焼き付けろ! このシュールな光景を! ちなみにこの巨乳サマはポルトガルの石材で作られている。松之山温泉の濃厚で高温な源泉は、普通の石材だとすぐ劣化させちゃうっていうんですね。だから世界中の石材を調査してポルトガル産になったのだという。白川屋には「おっぱい風呂」のほか、バストが小ぶりの「こっぱい風呂」もあるので、おっぱい、こっぱい、両方制覇するのが白川屋の正しき楽しみ方なのである

 

  

プロフィール
岩本薫(いわもとかおる)

1963年東京生まれ。温泉研究家、作家、エッセイスト。温泉研究家といってもひなびた温泉にしか興味がない偏愛志向。主な著書に『もう、ひなびた温泉しか愛せない』『つげ義春が夢見た、ひなびた温泉の甘美な世界』『ヘンな名湯』『もっとヘンな名湯』(以上、みらいパブリッシング)『ひなびた温泉パラダイス』(山と溪谷社)等。メディアにも多数出演。ひなびた温泉マニアのグループ「ひなびた温泉研究所」のショチョーでもある。

 

1200万年前の海水を……ソコから出しますか!

え〜、化石海水型温泉という温泉があるんですね。これは、太古の昔の海水が激しい地殻変動なんかで地底に閉じ込められてしまい、それが地熱によって温められて地上に上昇し温泉として自噴する。あるいは掘削してポンプで汲(く)み上げて温泉として利用する。と、そんな温泉なんですが、それがどれくらい昔の海水なのかというと、多くが数千年前から数万年前だったりするんだけれども、中にはトンデモなく昔のものもあって、新潟県の松之山温泉はなんと1200万年前の海水が自噴しているというのだからスケールが違う。そもそも、今から1200万年前の地球を、あなたは思い浮かべることできますか? 

時代区分でいえば1200万年前は新生代の新第三紀の時代。っていわれてもナンノコッチャですよね。え〜、恐竜が絶滅したちょっと後の時代。人類はまだ誕生していないけれども、その祖先の猿人がぎこちなく二足歩行しはじめた頃となるわけですが、スゴくないっすか? 松之山温泉って。そんな時代の海水が今この現代に温泉となって自噴しているんですからねぇ。

で、そんな世にも稀(まれ)な化石海水が巨乳の乳首からブシュー!っとほとばしっている温泉があるのだ。あ、話、ついてこられてます?

松之山温泉にある温泉旅館、白川屋の名物、その名も「おっぱい風呂」。ここの大浴場にくだんの巨乳サマが鎮座しておられるのである。腕も頭もない上半身と見事な乳房のみの石像があって、その乳首からほとばしる湯が大浴場の広い湯船を満たしている。なかなかの、いやいや、かなりシュールな光景だ。「相棒」の杉下右京がこれを見たならば間違いなく言うだろう。「はいぃ〜?」って。

クセつよ湯はクセになるよ!

でも、それだけじゃぁない。その乳首からほとばしる湯はケッコーなクセつよ湯だったりするのだ。香りが独特。油と薬が混じったような香り。そうそう、松之山温泉といえば草津温泉と有馬温泉と肩を並べて古くから「日本三大薬湯」と称されてきた名湯だったりするから、この香りは実に正しいといえよう。むしろ草津、有馬というBIG(ビッグ)2的温泉よりもちょっとマイナーな松之山温泉のほうがダンゼン薬湯っぽい。

最初はこの香りにちょっとビックリするけど、これがまた慣れていくホラ、クセがつよいものって、そのクセにハマるでしょ? 

もちろん「日本三大薬湯」っていわれるぐらいだから効能だって素晴らしい。ま、1200万年前はやっぱりダテじゃないわけですよ。独特な香りに包まれ、いかにも効きそうな湯のジワジワ感を肌に感じながら、源泉をほとばしらせる巨乳が鎮座する大浴場で、ポツンとひとりで湯につかっている。なかなかの忘れられない入浴体験になりますよ。

温泉街の外れにある松之山温泉の鷹の湯源泉。自噴の仕方がまたスゴい。地底に閉じ込められた源泉が、地底の圧力によって、いわば水鉄砲のように噴き出す、世にも珍しい「ジオプレッシャー型温泉」だったりするのだ

つつましく愛おしい温泉街にラブ!

そしてもうひとつ。松之山温泉といえば、温泉街がいい。温泉街といっても熱海のような歓楽街的な温泉街ではない。草津のようなご立派な温泉街でもない。旅館や店が10軒ほどあるだけの、山あいの小さな温泉街である。じゃあ、それのなにがいいのかっていうと、つつましいところがいい。商売的にガツガツしてない、のどかな温泉街。歩いていてなんだかホッとするような温泉街なのだ。

なぜだろう。そういうつつましい温泉街というのは、やけに記憶に残るんですねぇ。旅から帰ってきて、日常生活に戻って仕事に追われていたりすると、フト、唐突にあの小さな温泉街はよかったなぁなんて思い出すことがある。ヨソ者なのになぜだか胸を締め付けるような郷愁を伴って思い出す。それが胸にじんわりとくるんですよ。

でも、松之山温泉の場合はそんなふうにじんわりだけでは終わらない。まずはあの独特な湯の香りの記憶がよみがえってくる。クセつよな忘れがたい湯だったなぁ。あの香りにまた包まれたいなぁ。そして記憶の湯煙の向こうに、霧が晴れて景色がゆっくりと現れるかのように、あの巨乳が現れる。ブシュー!っと乳首から源泉をほとばしらせている。記憶効果も相まって、まるで夢の中の光景のように、信じられないほどの量の源泉がほとばしっているのだ。

もはやさっきまでのロマンチックな郷愁感は1ミリも残っていない。ただただシュールでミョーな気持ちに包まれながら、ボクはまた、松之山温泉行きの計画をぼんやりと考えはじめる……。

文・写真/岩本薫

今月のひなびた温泉

白川屋 (新潟・松之山温泉)

◎料金:1泊2食1万5550円〜
◎ナトリウム・カルシウムー 塩化物泉
◎アクセス:北越急行ほくほく線まつだい駅からバス30分、松之山温泉下車徒歩5分/関越道塩沢石打ICから35キロ
◎住所:新潟県十日町市松之山湯本55-1
◎TEL:025-596-2003
公式サイトは👉こちら


※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2024年10月号)
(Web掲載:2024年12月10日)


Writer

岩本 薫 さん

温泉本作家。ひなびた温泉研究所ショチョー。昔ながらのひなびた温泉の魅力を今に伝える執筆活動にいそしむ。目指すは温泉界の吉田類。著書に『日本百ひな泉』『ひなびた温泉パラダイス』『ヘンな名湯』など。

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