只見線冬絶景 川と列車、巨大キャベツに炭酸温泉
会津川口駅から徒歩10分の「かねやまふれあい広場」から望む只見線の列車。奥には日本の原風景を思わせる大志(おおし)集落がある
橋から眺め、橋を眺める
豪雨被害から11年余りの時を経て、2022年9月に全線復旧した只見線。会津若松駅(福島県)から小出駅(新潟県)まで135.2キロ、山あいを走る全国でも屈指の秘境路線だ。四季折々、気候や時間帯によっても変わる風景は何度でも訪れたくなる。
絶景ポイントの一つが「橋梁」。豪雨で橋桁が流出するなど被害が大きく、復旧に時間を要することになったが、列車が走ることで旅情が高まる。会津桧原(ひのはら)駅から会津蒲生(がもう)駅までの間に主な橋が八つ架かっており、特に第一只見川橋梁にはその魅力が詰まっている。
土木遺産に認定されたトラス構造のアーチ橋が只見川に架かり、列車は徐行して通過する。車窓から眺めても絶景だが、道の駅尾瀬街道みしま宿から徒歩10分のビューポイントに立つと、スケールの大きさに驚かされる。列車が模型のように動いていき、鉄道ファンはもとより、インバウンドにも人気のスポットになっている。2024年8月には、秋篠宮家の佳子さまもここからの景色をご覧になったそうだ。
冬は圧倒的な「白」の世界となり、モノトーンに覆われる。全線復旧後の2年は小雪だったが、今冬は例年並みの積雪で、列車が進むほどに雪が深くなっていく。一部の駅ではホームの駅名標が新しくなっていて、「天然炭酸水と炭酸温泉の里」「河井継之助終えんの地」など、イラストともに描かれていて思わず下車したくなる(ただし衝動的に下車すると、列車が数時間来ない時間帯があるので注意)。
移りゆく車窓の風景を眺めていると、沿線の家から手を振る子どもの姿が見えたので、思わず手を振り返した。観光列車に手を振る光景は目にしたことがあるが、普通のローカル列車に手を振るのは珍しい。これは全線復旧時に沿線自治体が「只見線にみんなで手をふろう条例」を定めたことによる。日常的に只見線に乗る住民は少ないだろう。ただ、子どもたちが只見線を大切な乗り物と考え、「マイレール」の意識を持てば力強い援軍になるかもしれない。
一面の雪の下にキャベツ!?
下車して町歩きを楽しみたいのが柳津(やないづ)町。圓藏(えんぞう)寺の門前町で温泉街もある、奥会津の玄関口だ。2024年春にリニューアルし、駅舎内にカフェや工房ができた会津柳津駅を出て、坂を下っていくと、そこここから湯気が立ち上っている。粟ともち米でこし餡を包んだ「あわまんじゅう」の店だ。出来立てはふわふわで、店ごとに異なる味わいを食べ比べするのもいいだろう。
見上げると、只見川河畔の崖上に立つ圓藏寺の本堂が目に入る。同寺には会津土産の定番・赤べこの伝説があり、境内には撫牛(なでうし)もいる。境内から見下ろす只見川もまた絶景だ。
柳津の冬の味覚が「雪堀キャベツ」。1メートル近い雪に覆われ、土の中で糖分を貯めたキャベツは甘みが増す。農家の岩佐誠吾さんが雪を掘ってキャベツを畑から引き抜いた。大きさもさることながら、3キロを超える重さにビックリ。今冬はキャベツの価格が高騰しているだけになおさらだ。
岩佐さんは「生で食べるのが一番だけど、ロールキャベツは最高」と言い、素材を生かす食べ方がいいようだ。「芯も甘いので、捨てないで」と教えてくれた。昼食付きのツアーに参加すると、キャベツを掘る体験ができる。
もう一つのグルメは「会津柳津ソースカツ丼」。只見線沿線には会津若松や只見にもソースカツ丼があるが、柳津のソースカツ丼はご飯の上に千切りキャベツと玉子焼きを敷き、その上に載せたカツにソースをかけている。厚みのあるカツとトロっとした玉子焼きの相性が良く、ご飯が進む。
炭酸など個性的な温泉
只見線沿線に良質の温泉が多いことはあまり知られていないかもしれない。柳津温泉のほか、宮下温泉、早戸温泉、大塩温泉など、ほとんどが源泉かけ流し。こぢんまりとした宿が多く、観光客も利用できる共同浴場があるところも。
只見川のほとりにホームがある会津川口駅からバスで10分の恵比寿屋旅館では、二つの源泉を内湯と露天で楽しめる。ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物・硫酸塩泉の玉梨温泉と、含二酸化炭素-ナトリウム・カルシウム-塩化物・炭酸水素塩泉の八町(はちまち)温泉だ。
主人の坂内譲さんは「全国的に見ても希少な炭酸温泉で、源泉から外気に触れずに湯船に注いでいます」と説明してくれた。肌につく気泡の量は日によって異なるそう。寝る前に湯につかると体の芯からポカポカになり、快眠だった。
冬ならではの絶景が次々と現れ、旨いものが待っている。身も心も溶かす温泉はツウをもうならせる。さまざまな人の思いが重なり、未曽有の災害から復活して走り続ける只見線。その魅力を乗って感じてほしい。
👀その他の立ち寄りスポット
東北電力奥会津水力館「みお里」
只見川水系の電源開発の歴史や仕組みを紹介。ギャラリーには絵画や幅7mのステンドグラスを展示している。木材を多用したラウンジからは只見線の列車も望める。
■10時~16時30分/月曜休/無料/TEL0241-42-7771/会津中川駅から徒歩5分
ただみ・ブナと川のミュージアム
只見ユネスコエコパークに登録されている地域の自然や動植物、雪国の民具などを展示。希望者は館内案内をしてもらえる(無料)。
■9時~17時/火曜休(祝日の場合翌日休)/310円/TEL0241-72-8355/只見駅から徒歩20分
<問い合わせ>
只見線管理事務所 TEL 0242-93-5155
※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(Web掲載:2025年1月23日)