旅よみ 俳壇 旅行読売2025年7月号

箱根の夏を彩る強羅温泉大文字焼(写真/ピクスタ)
【特選】
雷鳴やキャンプファイヤー騒ぎ出す
◉神奈川県中井町 竹 和世
<評>薪(たきぎ)を組んで火をつけて、と徐々に盛り上がっていた矢先、突然、雷が鳴り出した。雨が降り出すのも時間の問題。火を囲んでいたみんなの輪も散り散り。万全の準備で迎えたキャンプファイヤーだったのに、などと嘆く暇もなく……。そのような状況を大掴(おおづか)みにして詠んであるのがよい。なお、雷とキャンプ、ともに夏の季語なので許容範囲の季重なり。
【入賞】
花の下賢人顔の鹿座る
◉川口市 清正風葉
<評>奈良公園だろうか。他の人と同じように桜の写真を一心不乱に撮っていた作者。ふと、冷静な鹿の眼に見られていることに気づく。
泊り客二階に迎へ大文字
◉神奈川県中井町 笹尾雅美
<評>作者のお住まいを考えると箱根の大文字焼きを詠まれた句と想像した。二階から静かに見る大文字の火の美しさが目に浮かぶ。
頰に風りんごの花の間引きかな
◉小平市 佐藤そうえき
<評>頰をくすぐる風が、放射状に咲く林檎の、中心の花だけ残して側花を摘み取ってしまうというちょっと可哀そうな作業を慰めている。
寄道し足湯の順を待つ遍路
◉伊予市 福井恒博
<評>ひたすら遍路道を歩くという修行の途中で、疲れた足を癒やしにいくのも「寄道」になるという、その表現が面白いと思った。
【入選】
駅舎なき駅賑はひて春スキー
◉南魚沼市 堀口順子
囀(さえずり)の籬(まがき)ふくらむ武家屋敷
◉仙台市 平山北舟
梅真白吊橋京都奈良繋ぐ
◉伊賀市 箱林允子
鎌倉へ人運びけり春の風
◉川崎市 柳内恵子
夜桜と手によくなじむスキットル
◉横浜市 茅房克一
糊強き宿の浴衣や独り酒
◉市川市 島根正子
風光る豊洲市場のバスの波
◉江戸川区 岩井千恵子
備蓄米話題となるや遍路宿
◉富士市 佐野明美
弘法寺へまつすぐの道白日傘
◉市川市 松丸美祢子
民宿の客へ明日葉(あしたば)料理かな
◉練馬区 曽根新五郎
【佳作】
金色の空へ彼方へ鳥帰る
◉成田市 小川笙力
裏庭の仮設住宅日向ぼこ
◉長岡市 安木沢修一
甘き香の巨木と呼べるしだれ梅
◉市川市 冨山透
宇治川や橋を揺らして鶴帰る
◉茨城県利根町 中澤則明
蜜蜂も画家も集まる花と海
◉埼玉県吉見町 青木雄二
春の海琉球の風ほほなでて
◉青森市 山本覚
探梅の阿弥陀に歩む城下町
◉世田谷区 石川昇
青時雨フジタの白い裸婦に会う
◉足立区 太田君江
マチュピチュはみどり一色石の村
◉千葉県酒々井町 梅澤波葉
うす曇手水(ちょうず)に浮かぶ紅椿
◉所沢市 木下富美子
<選者>「墨BOKU」代表 津髙里永子(つたか りえこ)
兵庫県出身。「小熊座」同人。よみうりカルチャー講師。句集に『地球の日』『寸法直し』、著書に『俳句の気持』など
津髙里永子先生の総評
写真がシャッタ―を押す瞬間を狙うように、俳句は「今を、眼前を詠む」ことが大切といわれるが、じっさいのところを特選の「雷鳴やキャンプファイヤー騒ぎ出す」の句を例として考えてみよう。作者はここにじっさいに居合わせたのだろうか。それとも、遠くからこの騒ぎを見ていたのだろうか。または、人からの話を聞いて作った一句なのだろうか。結論から言うと、そういうことに関しては掲句の場合、あまり、追及しなくてもよいことだと思う。それよりも大事なことは、大変だったのよというような作者の感想は述べずに客観的に詠まれているということ、そして、雷の騒ぎが収まってから作られた句だったとしても、ドキドキ感が読者に伝わってくる「今」という現在形で詠まれていることである。
津髙里永子先生のワンポイント俳句講座
「当季雑詠」とは何ですか?
投句する時期に合わせて、夏だったら夏の句を自由な題材で詠んだものを投句するということです。ただし、季節の移り変わりの時など、例えば八月の始めの、あと何日かで立秋だったりした時には、少し、季節の先取りをして秋の句を投句、または提出したほうがスマートかもしれません。俳句も季節の後戻りは、あまりおススメできません。
【応募方法】
旅で詠んだ俳句、風景や名所を詠んだ俳句をお送りください。特選句には選者の直筆色紙と図書カード、入賞句には図書カードを進呈します。応募には「月刊旅行読売」に添付の「投句券」が必要です。「月刊旅行読売」は全国の書店またはこちらの当社直販サイトで送料無料でお求めいただけます。
(出典:旅行読売2025年7月号)
(Web掲載:2025年5月28日)
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