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旅よみ 俳壇 旅行読売2025年4月号

場所
旅よみ 俳壇 旅行読売2025年4月号

都心のホテル前に咲き誇る満開の桜(写真/ピクスタ)

【特選】

歯切れよきフロントマンや桜東風(さくらごち)
 ◉所沢市 木下富美子
<評>おめかしをして、今日は高級ホテルでのランチ。桜の名所に近いだけあって、予約をするのも気合が要った。ドキドキしながら前に立つと、背の高いスマートなドアマンの笑顔に迎えられ、誘い込まれるようにホテルの中へ。日常を忘れたひとときのすがすがしさがよく分かる句。同じ作者の「読み初ぞめや旅の雑誌と世界地図」の句にも「旅行読売」の選者として感謝感謝。

【入賞】

タウシュベツ川橋梁(きょうりょう)朽ちゆく春
 ◉杉並区 白浜尚子
<評>北海道上士幌町の糠平(ぬかびら)湖にある、旧国鉄士幌線のアーチ橋のこと。水位変化で見え隠れする「幻の橋」と春のたゆたいが響き合う。

鳥帰る大仏様の遥か上
 ◉世田谷区 石川 昇
<評>下五の「遥か上」という素直な表現に惹かれた。まだ、渡りに慣れず、必死に飛んでゆく成鳥になりたての鳥が想像できるからである。

寂として水音高し崩れ梁(やな)
 ◉埼玉県吉見町 青木雄二
<評>格調のある一句。簗の周りの静寂さ。使わなくなった簗を淡々と流れていく川の音。一つの景の奥に、この世の無情を感じさせる。

クラークと大志語るや鬼やんま
 ◉市川市 冨山 透
<評>さっぽろ羊ヶ丘展望台のクラーク博士像の指先。その宙に止まりつつ語る鬼やんまならばきっと大志があるに違いないと納得。

【入選】

実石榴(みざくろ)のところもつとも夕日濃し
 ◉伊賀市 箱林允子
ポン菓子の「ポン」の轟(とどろく)小春空
 ◉高岡市 大川浩史
清里駅ここも無人か小春空
 ◉江東区 岩川富江
ブレーカー落ちてしまひしクリスマス
 ◉練馬区 曽根新五郎
見たことも無き大聖樹基地の内
 ◉杉並区 森 秀子
冬凪(ふゆなぎ)やLAL(ジャル)の窓から舟一つ
 ◉足立区 山崎勝久
樹氷みなダイヤモンドとなる蔵王
 ◉市川市 井田千明
室咲(むろさき)のシクラメン据ゑ(すえ)無人駅
 ◉伊予市 福井恒博
使者として吉凶告げる初鴉(はつからす)
 ◉成田市 小川笙力
無人駅飲み込みそうな大銀杏(いちょう)
 ◉仙台市 星 良子

【佳作】

仰ぎては仏陀の肩の春の塵
 ◉神奈川県中井町 竹和世
芝浜を三度聞いたる暮の寄席
 ◉大田区  豊島仁
地吹雪をずらりと貨物列車来る
 ◉横浜市  茅房克一
枯野仏赤いぼうしの泣き笑い
 ◉足立区  太田君江
土くれのかすかな乾き寒牡丹(かんぼたん)
 ◉久喜市  梅田ひろし
貧乏人年末年始雑誌旅
 ◉刈谷市  菅家豊
馬を呼ぶ挂甲(けいこう)の武人冬青空
 ◉東京都中央区    豊澤佳弘
秋日和下仁田街道独り旅
 ◉行田市  根岸保
浮輪つけシュノーケリング珊瑚礁
 ◉川崎市  柳内恵子
吉方位探る夜長の風水本
 ◉さいたま市 小林茜音


俳壇選者_津髙里永子400x400.jpg

<選者>「墨BOKU」代表 津髙里永子(つたか りえこ)
兵庫県出身。「小熊座」同人。よみうりカルチャー講師。句集に『地球の日』『寸法直し』、著書に『俳句の気持』など

津髙里永子先生の総評

俳句を作り始めて少し余裕が出てきた方なら、応募規定には何も書かれていませんが、投句するときには、なるべく、これからの季節を先取りした句にされたほうが「旅行読売」の編集部にも選者にも喜ばれるということを、こっそり、お教えします。それは、やはり、店頭に並ぶ雑誌、それも旅の雑誌だからです。投句されてから発表があるまで、ゆうに三ヵ月はあるということを頭に入れて、いざ、進まん!という気概でよろしくお願いします。

津髙里永子先生のワンポイント俳句講座

「季重なり」とは何ですか?

「初心の段階では一句に季語を二つ入れることは避けてください」ということを昔は言わなかったそうで、ルーツを調べてみると、今は亡き飯田龍太(1920年~2007年)が1981年秋にNHK学園で初めての通信教育による俳句講座を創設するにあたって、監修者として、初心者に俳句という詩型を短期間で知ってもらうために明言されるようになったとか。

季語というのは、その選び方によって、作者の感情や気持ちも代弁できるモノ。例えば「春の月」と「おぼろ月」とは同じお月さまのことを詠んでいても「おぼろ月」のほうが、より柔らかでつかみどころのないモノに感じるから、不安、あいまい、けだるさなどを表現したいのならば、季語に「おぼろ月」を選ぶというような工夫がなされます。それゆえ、季語を二つ三つ入れてしまうと、結局、作者は何が言いたいの? 何と思ったの? ということが読者にわかりづらくなって共感を得られない、というのが大きな理由の一つです。春のモノと夏のモノが同時期にあるのが事実であったとしても、その句の雰囲気が総じて、春っぽいのか夏っぽいのかをよく見て聞いて感じた上で、どちらかを捨て、どちらかに絞るというのが、17音で言い切る俳句の宿命ともいえます。

とはいえ、季重なりだから、ぜーーーったいダメ! というわけではなく、飯田龍太の季重なりの句を少々ご紹介します。

 雪の峯しづかに春ののぼりゆく 『童眸』

 斑雪山月夜は滝のこだま浴び  『春の道』

 黒猫の子のぞろぞろと月夜かな 『山の木』

 手毬唄牧も雪降るころならむ  『山の影』

 鏡餅寒気憑きては離れては   『今昔』

掲句の例えば三句目、「月夜」とあっても「(春の)月夜」と解釈され、同じ季節の季重なりは許容範囲内です。

ただし、季語が二つ入っているということを知らずに作ってしまったというのは論外。歳時記で季語が二つ以上入っていないかどうかを必ず調べてみるのを怠らないように。季重なりであっても、これで良しという強い信念が持てれば、まずはこの「たびよみ俳壇」に出してみてください。お待ちしています。


【応募方法】
旅で詠んだ俳句、風景や名所を詠んだ俳句をお送りください。特選句には選者の直筆色紙と図書カード、入賞句には図書カードを進呈します。応募には「月刊旅行読売」に添付の「投句券」が必要です。「月刊旅行読売」は全国の書店またはこちらの当社直販サイトで送料無料でお求めいただけます。

(出典:旅行読売2025年4月号)
(Web掲載:2025年2月28日)

※連載「旅よみ俳壇」トップページはこちら

Writer

たびよみ編集部 さん

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