旅よみ 俳壇 旅行読売2024年10月号
山形県米沢市の大明神沢の草木塔(写真/津髙里永子)
【特選】
はんこたんな草木塔(そうもくとう)の草むしる
◉仙台市 平山北舟
<評>「はんこたんな」とは東北地方南部で農作業時に被(かぶ)るつば付きの頰被りのこと。草木塔は山形県に多く、江戸時代に伐採した木々を供養するために建てられた石碑のこと。森深い荒れ地の草木塔を訪ね歩いたとき、苔(こけ)むした碑にナナフシが細い脚でしがみついていた。誰も寄りつかないようなところであった。
【入賞】
万緑の山山山の信濃道
◉岡崎市 鈴木利喜夫
<評>中七の「山山山」の三文字。そうとしか言えず、それ以上に形容できない信濃の緑の深さに納得した。万緑の「万」も効いている。
念仏か飯盛山(いいもりやま)の蟬しぐれ
◉南魚沼市 堀口順子
<評>戊辰(ぼしん)戦争の際に白虎隊が自決した地として思い起こす会津若松市の飯盛山。少年達を弔うかのように聞こえるひたむきな蟬の声。
シャンパンを頂く山王祭(まつり)かな
◉高岡市 大川浩史
<評>東京・赤坂の日枝(ひえ)神社の山王祭。なんといっても赤坂まで祭を見に来たのだから、たまには贅沢(ぜいたく)に、と作者は優雅なひとときを過ごす。
田植時の子供の出番苗放る
◉江東区 岩川富江
<評>「苗放る」というぞんざいな言い方が却(かえ)って子供達と大人らの近しさ、信頼度が窺(うかが)え、放り投げられた苗のみどりが目に浮かぶ。
【入選】
実朝(さねとも)の歌碑に幽(かそ)けく貝風鈴
◉新宿区 居林まさを
境内の写し霊場秋の風
◉鳥取県湯梨浜町 佐々木靖彦
風紋の果てへいざなふ浜豌豆(えんどう)
◉東京都中央区 豊澤佳弘
子牛鳴く子燕も鳴く牛舎朝
◉市川市 冨山 透
夏がすみ淡海(おうみ)の岸にたぷと波
◉久喜市 梅田ひろし
夏の旅夕餉(ゆうげ)の後のフラメンコ
◉川崎市 柳内恵子
朝涼や秘境の駅の待合所
◉伊予市 福井恒博
山笑う四度見直す旅仕度
◉所沢市 木下富美子
追憶に浸りて過ごす避暑の宿
◉八千代市 池田恵津子
ぶなの森蝦夷(えぞ)春蟬のこゑ頻(しき)り
◉さいたま市 竹内白熊
【佳作】
長月の風に誘われ玄武洞
◉奈良市 竹原宏行
夏場所や能登の力士の初優勝
◉相模原市 妹尾茂喜
風光り水面の網の星峠
◉さいたま市 小林茜音
風のまま信濃追分青胡桃
◉杉並区 白浜尚子
旅先の鳥の羽挿すかんかん帽
◉江戸川区 岩井千恵子
梅雨はれま路面電車も満員よ
◉松山市 友澤恭子
阿夫利(あふり)より賜ふ水なり冷奴
◉横浜市 茅房克一
能登と佐渡見える砂浜夏の旅
◉長岡市 安木沢修風
畦塗や小さな手形残りけり
◉神奈川県中井町 笹尾雅美
五月雨の外湯廻りやふたり傘
◉茨城県利根町 中澤則明
<選者>「墨BOKU」代表 津髙里永子(つたか りえこ)
兵庫県出身。「小熊座」同人。よみうりカルチャー講師。句集に『地球の日』『寸法直し』、著書に『俳句の気持』など
津髙里永子先生の総評
「たびよみ」俳壇というネーミングがよいからか、応募句数が増えてきているとのこと、嬉しい限りです。ただ、地名に頼り過ぎないようにしてほしいです。今回、数えましたら、全投句数の45%ほどに地名が入っていました。地名を入れて作るのが悪いとは言いませんが、その土地から伝わってくるもの、自身の目で見たもの、肌で感じたもの、耳に聞こえたものを信じて一句にするということにも、チャレンジしてみてください。
津髙里永子先生のワンポイント俳句講座
「歳時記とは?」
「歳時記」は季節ごとに天文・地理・人事・動植物などに区切っておもな季語が集められている季語の辞書みたいなものです。春夏秋冬新年と五冊に分かれたものや、「大歳時記」といえる卓上式で写真やイラストまで載っているもの、または月ごとに季語(季題)を分けた簡潔な「季寄せ」と呼ばれるものなど、様々なものがありますが、その季語の例句名句や、成り立ち(本意)などが説明されているものがおススメです。一冊(一組)は持っていたほうがいいと思います。どこからでも読めますし、美しい季語にも出会えます。その例句から季語の持つイメージを感じられるようにもなります。また、同じような句(類句・類想句)がすでにあると指摘されれば、自分の句を取り下げるのがルールとなっていますが、提出の前に最低限は手持ちの歳時記で調べておくこともできます。
【応募方法】
旅で詠んだ俳句、風景や名所を詠んだ俳句をお送りください。特選句には選者の直筆色紙と図書カード、入賞句には図書カードを進呈します。応募には「月刊旅行読売」に添付の「投句券」が必要です。「月刊旅行読売」は全国の書店またはこちらの当社直販サイトで送料無料でお求めいただけます。
(出典:旅行読売2024年10月号)
(Web掲載:2024年8月28日)
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