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【ひなびた温泉】伊豆半島の大トリ温泉にて〝海〞を眺める 昭吉の湯<静岡・下田温泉>

場所
  • 国内
  • > 北陸・中部・信越
  • > 静岡県
> 下田市
【ひなびた温泉】伊豆半島の大トリ温泉にて〝海〞を眺める 昭吉の湯<静岡・下田温泉>

山間にテラスのようにせり出した湯船からの眺めは格別。トロトロの湯につかりながら、ここでぜひぜひ仁王立ちしてして“征服感”に包まれ、“心眼”で海を眺めてほしいなぁ

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プロフィール
岩本薫(いわもとかおる)

1963年東京生まれ。温泉研究家、作家、エッセイスト。温泉研究家といってもひなびた温泉にしか興味がない偏愛志向。主な著書に『もう、ひなびた温泉しか愛せない』『つげ義春が夢見た、ひなびた温泉の甘美な世界』『ヘンな名湯』『もっとヘンな名湯』(以上、みらいパブリッシング)『ひなびた温泉パラダイス』(山と溪谷社)等。メディアにも多数出演。ひなびた温泉マニアのグループ「ひなびた温泉研究所」のショチョーでもある。

温泉が湧くための自然条件がありまくりの半島

雨はなぜ降るのか?

それは海や川の水なんかが水蒸気になって空へと運ばれ、上空の冷たい気温に冷やされ水に戻り、重力によって地上に降ってくる……と。これが自然現象である雨のメカニズム。

温泉もまた自然現象にほかならない。雨水や雪解け水が地下に染み込み、火山のマグマの熱によって温められて長い時間をかけて地上に自噴する。つまり、温泉もまた自然条件がそろえば、雨のような現象として勝手に〝起こるもの〞なのだ。

さて、日本列島には、そんな温泉が湧くための自然条件がありまくりの半島があったりする。いや、ホント、この半島は温泉を湧かすためにあるんじゃないかって思えるほどなのだ。伊豆半島。そう、相模湾と駿河湾の間に突き出た静岡県のあの半島だ。いうまでもなく、そこには熱海、伊東、修善寺をはじめ温泉地がいっぱいある。なんと40か所以上もあるのだ。

なぜそんなに温泉があるのか?

ひとつは伊豆半島には雨がいっぱい降るから。伊豆半島は海に突き出した山地である。海からの風が海水の水蒸気を巻き上げながら、半島の中央を貫く背骨のような天城連山にぶつかり、上昇して雨雲を作り出す。まさに雨雲が自然発生するような地形だったりするのだ。もちろんここら辺が台風の通り道であることも大いに関係している。

そしてまた、実は伊豆半島そのものが、太古の昔の海底火山の連なりが日本列島にぶつかり乗り上げた〝巨大な名残り〞でもあるのである。え?それってどーいうことなのよ?

今からウン十万年前のこと、日本列島が現在のカタチになろうとしていた頃、その仕上げとばかりに巨大な海底火山群が、沈み込む太平洋プレートに引っ張られて、日本列島の太平洋側の真ん中あたりに次々とぶつかってきたのである。たとえば現在の神奈川県の丹沢山地はそれらの火山群が乗り上げてそのまま山地となっている。ダイナミックでしょ?

まぁ、そんな激しい〝地質学的事件〞を経て伊豆半島ができあがり、かつての火山群の噴火口は活動をやめているものの、火山のマグマは地下に存在しているのだ。

つまり伊豆半島は、言ってしまえば、そのような特殊な地形と特殊な地質の成り立ちが相まってできた〝巨大な温泉発生装置〞のような半島だったりするのだ。スゴいっすよね。伊豆半島の温泉の鮮度がよく、湯がパワフルなのもそこにヒミツがあったのかもしれませんね。

そこは伊豆半島の大トリの極上湯!

そんなことを知ってしまうと、せっかく伊豆半島で温泉に入るなら、1か所だけでなくいろいろめぐってみようって思わずにはいられない。巨大な温泉発生装置なんだから、それを思う存分楽しみたいじゃんと。

で、そんな伊豆半島の中にワタクシにとってトクベツな温泉がある。伊豆半島の湯めぐりの大トリのような存在の温泉だ。

そこは伊豆半島の先っぽあたりの山間の高台。急勾配の坂道を「ヒーヒーハーハー」言いながら上ってきた先にご褒美のようにある露天風呂だ。施設の名は「昭吉(しょうきち)の湯」。

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受付は手作り感あふれる小屋って感じだ。実際、ここのご主人は、なんでも手作りしてしまう達人でもある

この温泉がなぜ大トリなのか?

まず、泉質。伊豆半島の温泉っていうと肌にピシッとくるさっぱり気持ちいい湯が多かったりするけれども、ココはそんな中で珍しいトロリとした浴感の湯。それが〆の湯として実にいい塩梅(あんばい)なのだ。またココは完全予約制なんですね。だからゆったりと湯を堪能できる。これもとっても重要。

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湯のトロミ具合。写真でもおわかりいただけるのではないだろうか

なによりもロケーションがたまらなくいい。宮大工が手がけた立派な半屋根付きの露天風呂が山間の斜面にテラスのようにせり出している。だから眺めが抜群だし〝特等席感〞がハンパない。トロトロの極上湯を堪能しながら、その日めぐった湯のひとつひとつを思い出し、ああ、今日はいい湯めぐりができたなぁと、さりげなく感慨に浸りながら、そこでいきなりザバッと立ち上がり、仁王立ちをして景色を眺めるのである。すると伊豆半島の山々の緑が眼下から遠方まで見渡せて、実際はその先に海までは見えないけれども、でも、気分的には太平洋が見えているんだなぁ。これぞ心眼というヤツか?

なんていうか、ココで仁王立ちすると、えも言われぬ征服感に包まれるのだ。そう、伊豆半島の湯を征服したかのような。おそらくハズレのない伊豆半島の良質な湯めぐりの最後に出会う、意表を突かれたまさかのトロトロ湯を誰にも邪魔されずに堪能し、さらに抜群に気持ちのいい眺めを前に仁王立ちすることで、そのスペクタクル感が格段にアップし、幸せホルモンが頭の中に一気にあふれ出すからではないだろうか。きっとそうに違いない。そーいう脳内現象を起こすトクベツな温泉なのだ。

ああ、ぜひともこのフシギな征服感をみなさんにも味わってもらいたいなぁ(あ、あくまでも個人的な感想なので「海なんか見えませんでしたが?」なんていうクレームは受け付けません、念のため……)。

文・写真/岩本 薫

♨今月のひなびた温泉

昭吉の湯 (静岡・下田温泉)

◎営業:10時〜20時(日曜、祝日は8時〜)/無休
◎料金:1500円(完全予約制。2人から受付、入浴は1時間程度)
◎泉質:アルカリ性単純温泉
◎アクセス:伊豆急行線伊豆急下田駅からバス22分、横川下車徒歩30分。または伊豆急下田駅からタクシー25分/東名高速沼津ICから70キロ
◎住所:静岡県下田市横川1066-24
◎TEL:080-6956-3448
※施設のインスタグラムは👉こちら


※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2025年4月号)
(Web掲載:2025年7月2日)


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