【ひなびた温泉】硫黄が切れるとヤバいことになる? 万座温泉 湯の花旅館<群馬>

これが世界でここにしかないサルノコシカケ湯である。窓際にある木の箱みたいなところに巨大なサルノコシカケが熱い源泉に漬け込まれている。飲泉もできるけど、味は「まず~い!もう1杯!」って感じで、カラダには効きそうな味だ
濃厚硫黄泉にアレをブレンドしちゃった最強温泉!
アル中が酒が切れるとヤバいことになるように(ん?ちょっと例えが悪いって?)、温泉マニアは硫黄(いおう)が切れるとヤバいことになる。あれ?オレ、硫黄が足りてなくね?と。ココロが不穏にザワついてくるのだ。そんなときはどうするのか?ハイ、足りないものは足す。というわけで、めっちゃ硫黄が濃厚な温泉につかってカラダに硫黄チャージをしてくるのですね。
硫黄の含有量日本一の温泉といえば群馬県の万座温泉である。万座温泉って聞くと万座プリンスホテルのイメージがあるけれど、ここにもひなびた温泉旅館があるんだなぁ。
その宿、湯の花旅館は万座温泉でいちばん標高が高いところにある。登り道を登り切ったあたりに、特徴的な三角屋根を空にそびえさせて、双六(すごろく)のゴールのごとく立っていたりするから、なんていうかたどり着いたなぁ〞感が満載で、実に胸キュンな佇(たたず)まいの旅館だったりするのだ。
さて、そんな湯の花旅館を紹介する前に、そもそもなんで万座温泉は硫黄の含有量日本一なのか?という話をひとつ。
万座温泉の水源は活火山である草津白根山のマグマに温められた熱水である。この熱水には硫黄成分を含んだ火山ガスがたっぷりと溶け込んでいるんですね。そんな熱水が地上に噴き出して温泉になるわけだけど、万座温泉の地下は、断層が複雑に入り組んだ特殊な地質構造だったりして、まぁ、平たくいえばスキマだらけなんですね。そのスキマを通って地上に自噴しているのが万座温泉というわけで、地上に出てきやすい分、あまり地下水と混じることなく(つまり、薄められることなく)、そのまま温泉になっている。だから硫黄成分がとっても濃いのだ。
おまけにマグネシウムを多く含んだ地質でもあるので、万座温泉の湯には一般的な酸性湯の3倍ものマグネシウムが含まれている。マグネシウムは血圧を下げたり鎮静効果もあるっていわれてますからねぇ、万座の湯につかると「効きそうだなぁ」って、いつも思っちゃうけれども、アレは気のせいではないということなんですね。
湯の花旅館、攻めてるなぁ〜
ということで話を湯の花旅館に戻しましょう。この旅館の内湯は実に攻めているのだ。なんとなんと、ただでさえカラダへの効能が素晴らしい濃厚な万座の湯に、漢方薬としても有名なアレのエキスをブレンドしちゃっているのだから。え〜、アレとはなにかっていうと、ハイ、サルノコシカケであります。ね?攻めてるでしょ?
サルノコシカケ。知らない人のために説明すると、ま、ザックリいえば巨大なキノコですね。猿が腰掛けられるぐらい大きくて、カタチも腰掛けるのにちょうどよさそうなのでサルノコシカケと呼ばれているわけ。漢方薬で「霊芝(れいし)」ってありますよね。アレはサルノコシカケの一種だったりするんですよ。
これが湯の花旅館が誇る巨大サルノコシカケだ!
だから、効きますよぉ〜、湯の花旅館のサルノコシカケ湯は。硫黄チャージもめっちゃできるし、 腰痛もラクになってくるし(あ、ワタクシ腰痛持ちなんです。ヘルニアとギックリのWの腰痛持ちだったりして……)。木造の浴室もひなびた風情を醸し出していていい感じ。
おまけにこの湯の花旅館。入り口を入ると無数のタヌキの剥製(はくせい)たちが迎えてくれたり、「日本一高き湯宿」とか「日本一古さで勝負」とか「日本一寒き宿、外はマイナス20度」とか、自慢なのか自虐なのか、なんだかよくわからない看板がズラズラと飾られていたり、熊の剥製を抱いて記念撮影ができちゃったり……。自炊もできるし、山の景色と一体化した気分で湯につかれる露天風呂だってあるし、あの桜庭(さくらば)龍二も愛した宿だったりするんだから(これは、わかるヒトだけわかればいい!)、実に味のある旅館なのである。なんていうか経営者のお人柄が館内のそこかしこにあふれていて、例えばボクのような温泉関係のヒトたち(?)のリピートが多いのも、そうしたところが無関係ではない。「愛され宿」っていうヤツですね。
標高1800メートルの万座温泉でいちばん高いところに立っている。この三角屋根がいいんだなぁ
みなさまのお力を貸してください
ところがそんな湯の花旅館が今、窮地に立たされている。なんと、地盤沈下で温泉施設が傾いてしまったとのこと。今のところは宿泊も入浴もできるけれども、地盤補強や建物の補強をしないといずれ営業ができなくなってしまうというのだ。いや、これ、日本で、いや、世界でもここにしかない唯一無二のサルノコシカケ湯の存続がかかっているというわけで……。
今、クラウドファンディング(※現在は終了)で各種工事費の寄付も募っているので、どうか、みなさま、湯の花旅館に救いの手を差しのべてください。
文・写真/岩本 薫
プロフィール
岩本薫(いわもとかおる)
1963年東京生まれ。温泉研究家、作家、エッセイスト。温泉研究家といってもひなびた温泉にしか興味がない偏愛志向。主な著書に『もう、ひなびた温泉しか愛せない』『つげ義春が夢見た、ひなびた温泉の甘美な世界』『ヘンな名湯』『もっとヘンな名湯』(以上、みらいパブリッシング)『ひなびた温泉パラダイス』(山と溪谷社)等。メディアにも多数出演。ひなびた温泉マニアのグループ「ひなびた温泉研究所」のショチョーでもある。
今月のひなびた温泉
湯の花旅館 (群馬・万座温泉)
◎料金:1泊2食1万3950円〜(日帰り入浴700円)
◎泉質:酸性ー含硫黄ーマグネシウム・ナトリウムー硫酸塩泉
◎アクセス:吾妻線万座・鹿沢口駅からバス40分、万座バスターミナル下車徒歩15分(宿泊は送迎あり、要予約)/関越道渋川伊香保ICから77キロ
◎住所:群馬県嬬恋村干俣 万座温泉2401/TEL:0279-97-3152
※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2024年12月号)
(Web掲載:2025年5月5日)