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旅よみ 俳壇 旅行読売2025年10月号

旅よみ 俳壇 旅行読売2025年10月号

熊川宿では熊川葛を使った葛まんじゅうなどが名物となっている(写真/ピクスタ)

【特選】

葛根(くずね)掘る若狭の里の爺(じじ)集ひ
 ◉四日市市 堀田久美子
<評>滋賀県と福井県の県境にある若狭街道の宿場町、熊川宿は、純白で良質な「熊川葛」の産地。晩秋に葛根を掘り、江戸時代からの「寒晒(かんざら)し」の製法を守らんと地元の有志が「熊川葛振興会」を立ち上げて、今でも純度百%の本葛を作り続けている。作者は、その品質や伝統を誇りに心を寄せ合っている方々とふれあって深く感銘を受けたのであろう。

【入賞】

団扇(うちわ)撒(ま)く僧は腕(かいな)を伸ばしつつ
 ◉伊賀市 箱林允子
<評>毎年5月に奈良の唐招提寺で、鼓樓(ころう)から僧侶がハート形の団扇を参拝者に撒く。僧の袖から見えた白い腕が印象的だったのだろう。

人工の浜にやさしい初夏の波
 ◉千葉県酒々井町 梅澤波葉
<評>千葉県には日本一の長さを誇る人工海浜(稲毛、検見川<けみがわ>、幕張)があり、賑(にぎ)わっている。波がやさしい、という作者の感覚に共鳴した。

痛む桃今日が最後のすすり桃
 ◉神奈川県中井町 笹尾雅美
<評>大事に育てられたものだからなんとか食べたいという気持ちが伝わる「すすり桃」が泣かせる。ただし、「痛む」ではなく「傷む」ではないだろうか。

更衣(ころもがえ)ドジャーブルーのユニフォーム
 ◉市川市 冨山 透
<評>大谷翔平サマサマと拝みたくなるこの夏。ドジャースの青の鮮やかさを身に引き寄せて、さあ、我らもスカッとスイッチを切り替えよう。

【入選】

軽やかな夜店の七味売りの声
 ◉高岡市 大川浩史
短夜(みじかよ)や波浮(はぶ)の港の舟せはし
 ◉新宿区 居林まさを
峰寺の大杉小杉露涼し
 ◉成田市 小川笙力
大黒家(だいこくや)奥に単衣(ひとえ)の荷風(かふう)かな 
 ◉市川市 島根正子
野宮(ののみや)の茅(ち)の輪束ぬる竹の風
 ◉足立区 山崎勝久
鳴く蟬や読経のごとく三回忌
 ◉岐阜県八百津町 細江隆一
オリーブの花から湧くや島の風
 ◉上田市 中野康子
友と食ふ佐世保バーガー熟れ蕃茄(ばんか)
 ◉川口市 清正風葉
独酌や火蛾(ひが)の二匹を友として
 ◉埼玉県宮代町 三神景信
老鶯(ろうおう)や即身仏と菩薩像
 ◉日高市 渡辺義子

【佳作】

ファッションを観察氷菓食べ乍ら
 ◉杉並区 森 秀
那珂川の流れ輝く囮鮎(おとりあゆ)
 ◉茨城県利根町 中澤則明
夏霧や熊よけ鈴を背に三つ
 ◉足立区 太田君江
初夏や澄海岬(すかいみさき)の藍深し
 ◉所沢市 木下富美子
漆黒に十字星あり西表島(いりおもて)
 ◉町田市 星野貴久
星の砂捨て一夏の恋終る
 ◉仙台市 平山北舟
湖上駅空のボトルに青葉風
 ◉伊予市 福井恒博
巨(おお)き日を包むが如し夏の雲
 ◉相模原市 妹尾茂喜
蛇の目傘白の単衣(ひとえ)や神楽坂
 ◉大田区 豊島 仁
明月院今日の紫陽花今日の色
 ◉市川市 井田千明


俳壇選者_津髙里永子300x300.jpg

<選者>「墨BOKU」代表 津髙里永子(つたか りえこ)
兵庫県出身。「小熊座」同人。よみうりカルチャー講師。句集に『地球の日』『寸法直し』、著書に『俳句の気持』など

津髙里永子の総評

俳句の良さは、俳句を詠む、作るという楽しさとともに、俳句を読むという楽しさがあることです。行ったことがないところの俳句を読んで、その土地に思いを馳せたり、行ってみたくなったり、または同じ体験をしたことのある読者に共感してもらえるような句は、作者自身にとって印象に残ったことばが入っているだけでなく、さらに、その印象に合うリズムが内在していると思いました。たとえば、特選の作品は、その丁寧な詠み方で「好々爺」の実直さが伝わってきます。入賞の四作品にも、不公平なく団扇を配ろうとする僧の腕の動き、人工浜の砂粒まで揃った波の穏やかさ、傷みつつある桃への切なさ甘さ、そして、ドジャーブルーといわれただけで響き合う弾みがありました。

津髙里永子先生のワンポイント俳句講座

「秋の字があっても…」
暑かった日々から解放されて、やっと秋らしくなってきました。ところで、ご存知かもしれませんが、「秋」といっても秋ではない季語があることを、少々、心にとめておきましょう。たとえば、「竹の秋」は竹の葉は春に黄ばむことを表す「春」の季語、「麦の秋」または「麦秋」(ばくしゅう)は、麦の穂の黄色く熟す頃をいうので「夏」の季語です。ご注意くださいね。


【応募方法】
旅で詠んだ俳句、風景や名所を詠んだ俳句をお送りください。特選句には選者の直筆色紙と図書カード、入賞句には図書カードを進呈します。応募には「月刊旅行読売」に添付の「投句券」が必要です。「月刊旅行読売」は全国の書店またはこちらの当社直販サイトで送料無料でお求めいただけます。

(出典:旅行読売2025年10月号)
(Web掲載:2025年8月28日)

※連載「旅よみ俳壇」トップページはこちら

Writer

たびよみ編集部 さん

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