長野県白馬村の八方池の夏景色（写真／ピクスタ）

【特選】

吹き上がる白馬（はくば）の風を食（は）む盛夏
　◉東京都中央区　豊澤佳弘
＜評＞表現がダイナミック。高原の清涼感と野生味を帯びた「白馬」の地名が利いています。日本アルプスから吹き上がる風を暑い夏そのものがバクバクと食べ、生命力を爆発させているようです。

【入賞】

霊山（れいざん）の黙（もだ）に残花の散りにけり
　◉草津市　田中幸湖
＜評＞咲き残る桜の花が旅人の訪れを待っていてくれたのでしょうか、山の霊気漂う静けさの中に時の移ろいと自然への畏敬が重なります。

星月夜（ほしづきよ）母のにほひのフルートは
　◉神奈川県中井町　笹尾雅美
＜評＞星が明るく輝く夜、奏でるフルートにふと「母のにほひ」という懐かしさと安らぎを感じている。音と香り、記憶と夜空の交錯。

木の国の磐座（いわくら）包む百千鳥（ももちどり）
　◉伊賀市　箱林允子
＜評＞紀伊や熊野などの古代的な「木の国」でしょう、神が降りる神域の象徴である磐座を豊かに包み鳴き交わす春の鳥たち。

青葉光（あおばこう）魔力を発す大天狗（てんぐ）
　◉横浜市　相沢恵美子
＜評＞赤い鼻の大きな天狗が青葉光の中で魔力を発しているというスケール感が面白い。自然の耀きには異界の力が働いているのですね。

【入選】

草餅は長谷寺登る力餅
　◉仙台市　星 良子
茶の都新茶いろいろ祭かな
　◉行田市　根岸 保
木陰にも田畑にも人清和かな
　◉つくば市　有阪貴男
大利根を弾く白鰱（はくれん）麦の秋
　◉新宿区　居林まさを
ふるさとの柿の青葉や鳥も鳴き
　◉相模原市　妹尾茂喜
散策の大屋根リング霧が峰
　◉江東区　岩川富江
万緑や出雲大社の骨董（こっとう）市
　◉川崎市　柳内恵子
新茶くむ仏さんにもそなへをり
　◉松山市　友澤恭子
八犬士の珠（たま）の光や初夏の波　
　◉市川市　井田千明
自由とは何か問ふ旅麦の秋　
　◉成田市　小川笙力

【佳作】

白糸や心涼しき瀬尾三滝
　◉青森市　山本覚
夏に入る葉山にヨット五つ六つ
　◉横浜市　今村千年
シベリウスに心揺さぶれあいの風
　◉高岡市　大川浩史
リスボンの灯台守や雲の峰
　◉足立区　太田君江
秩序無き祭りの後の蝌蚪（かと）の水
　◉神奈川県中井町     竹和世
みどりの日ネモフィラ光る舎人（とねり）の夜
　◉江戸川区　岩井千恵子
手を禊ぐ新樹明かりの五十鈴川
　◉杉並区　森秀子
亀戸の風に従ふ藤の房　　
　◉足立区　山崎勝久
新緑や観光バスの連なりて
　◉南魚沼市　堀口順子
道くねくね汗だくさっぱり龍神の宿
　◉香芝市　松田民子

＜選者＞「麦」会長　対馬康子（つしまやすこ）
香川県出身。「天為」最高顧問。現代俳句協会副会長。産経新聞俳壇選者。2015年文部科学大臣表彰。句集に『愛国』『純情』『竟鳴』など

対馬康子先生の総評
今月も、旅に出会った自然と人々の営み、そして土地の文化や歴史を織り交ぜながら豊かで楽しい作品でした。「リスボン」「シベリウス」など異国的・芸術的要素も惹かれます。ふとした草花や人の仕草にも「いつもの自分ではない感覚」で出会う、見慣れたものの中の「異化」を見つける旅の時間を楽しんでください。

対馬康子先生のワンポイント俳句講座
「比喩の使い方で気を付けたいことは？」
　わずか17音ととても短く、その中で大きくイメージを喚起しようとする俳句にとって、比喩は自然や心情を重ね合わせ、句に奥行きを与えるための有効な手法です。直喩（〜のよう、～のごとし）や隠喩（〜は〜）を用いて、一句の表現力を詩的に高めましょう。
　気を付けたいのは、比喩が日常よく使うような喩え、例えば「綿のようなる白い雲」「火のごとき夕焼」など、説明的なものになると平板な類想になりがちです。余白や余情を意識して、読み手の想像を引き出すような表現を目指しましょう。写生的事実の中にも、その結びつきに意外性があることです。金子兜太の「銀行員等朝より螢光す烏賊のごとく」は、衝撃的な比喩作品です。

【応募方法】
旅で詠んだ俳句、風景や名所を詠んだ俳句をお送りください。特選句には選者の直筆色紙と図書カード、入賞句には図書カードを進呈します。応募には「月刊旅行読売」に添付の「投句券」が必要です。「月刊旅行読売」は全国の書店またはこちらの当社直販サイトで送料無料でお求めいただけます。

（出典：旅行読売2025年9月号）
（Web掲載：2025年7月28日）

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