名作のふるさとを訪ねて まんが王国とっとりを旅する(1)【倉吉市】
玉川を挟んで、漫画とほぼ同じ建物が並ぶ倉吉白壁土蔵群
『遥かな町へ』の舞台を歩く<倉吉市>
著名な漫画家を多く輩出してきた鳥取県。2026年10月9日には、谷口ジローさんが倉吉市を舞台に描いた『遥かな町へ』を実写化した映画が公開される。名作を生んだ町を歩き、作者の心情にも触れてみたい。

『遥かな町へ』口絵イラスト ©パピエ/谷口ジロー
【谷口ジロー】
1947年、鳥取市出身。『遥かな町へ』『父の暦』『孤独のグルメ』(原作:久住昌之)などが、緻密な描線と巧みなストーリーで海外でも高い評価を得る。2011年、フランスの芸術文化勲章「シュヴァリエ」を受章。17年逝去。

©パピエ/谷口ジロー
『遥かな町へ』
48歳の中原博史は、仕事の出張の帰りに故郷・鳥取の倉吉を訪れ、なぜか1963年の町へと迷い込む。そこには若き日の母や妹、祖母、後に失踪する父の姿があった。意識は48歳のまま、体は14歳に戻った博史は、再び家族と向き合うことになる。
映画『遥かな町へ』は2026年10月9日より全国公開
出演:大谷亮平 及川桃利 磯谷萌々子 戸田菜穂 滝藤賢一 ほか
脚本・監督:錦織良成 公式サイトは👉こちら
鳥取県中央部に位置する倉吉市を舞台に、谷口ジローさんが描いた『遥かな町へ』は、1998年に発表されて以来、根強い人気を誇り国内外で評価を得ている。2026年10月に実写映画が公開されると知り、改めて主人公がタイムスリップして迷い込んだ倉吉を訪ねてみたくなった。
倉吉の町へは、山陰線倉吉駅から路線バスで15分ほど。観光案内所で「遥かな町へ 倉吉まち歩きマップ」を入手すると、作品に登場する家並みや通りなどが約20か所も記されていた。当時と今の風景を見比べたくて、早速、歩き始める。
まずは口絵イラストに描かれた土蔵群へ。幅3メートルほどの玉川に沿って、焼き杉の黒い腰板に白壁、赤瓦の屋根を冠した土蔵が続く風景は、口絵イラストそのもの。作品の時代設定は1963年。60年以上過ぎても変わらない町並みは、「倉吉市打吹(うつぶき)玉川(通称:倉吉白壁土蔵群)」として重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。
川には一枚石でできた幅の狭い橋がかかり、土蔵や町家の裏口に通じている。倉吉の町を象徴する景色を背景に主人公が友人と、時にはひとりで歩く姿が何度も描かれている。

14歳の自分に入れ替わった主人公が倉吉の町をさまよう ©パピエ/谷口ジロー

本町通りには商都として栄えた倉吉の面影が残る
作中のあのひとコマを探して土蔵、商家が並ぶ町へ
玉川沿いの通りは、言わば裏通り。土蔵や町家の入り口は反対側の本町通りに面している。本町通りには酒蔵、醤油(しょうゆ)蔵、格子(こうし)や出格子を設えた町家が並び、ここも作品に描かれたままのたたずまい。持参した単行本のページをめくり、ここだ、このアングルだと、答え合わせを楽しむように通りを何度も往復した。景色と作品を見比べ、細部に至るまで緻密で繊細な描写に今更ながら感服した。

タイムスリップした主人公が実家を探すとそこには…… ©パピエ/谷口ジロー

映画のロケに使われた主人公の実家「中原洋服店」。撮影後もそのまま残され、公開中
本町通りから離れ打吹回廊の展望台に上ると、赤瓦の屋根が密集した町の向こうに打吹山が見えた。その打吹山も主人公がたびたび訪れた場所。町を見下ろした描写も、今と変わっていない。
本当に何も変わっていない。それは、無秩序な建て替えや改築を制限し、空き店舗や土蔵を飲食店や土産物店に再生するなど、古いものを守りながら活用するという地域の人々の努力によるものだろう。

打吹山は主人公がたびたび訪れ、町並みを見下ろした ©パピエ/谷口ジロー

打吹回廊の展望台から見た赤瓦屋根の町並みと打吹山
もっともっと作品の舞台を知りたいと歩き回っているうちに、日が暮れてきた。人の声も明かりも消えたモノトーンの景色の中に今、主人公がたたずんでいても少しも不思議ではないように思えた。『遥かな町へ』は、倉吉のこの景色があってこそ生まれたと確信した。偶然ではなく必然として……。「遥かな町」は今も目の前にあった。

タイムスリップした主人公が駅で父と語り合うシーン。誰にも明かさなかった父の苦悩を知る
©パピエ/谷口ジロー
名作のふるさとを訪ねて まんが王国とっとりを旅する(2)倉吉の街歩きは👉こちら
名作のふるさとを訪ねて まんが王国とっとりを旅する(3)北栄町と境港は👉こちら
協力:鳥取県東京本部
※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2026年11月号)
(Web掲載:2026年9月28日)
※鳥取県など中国エリアの旅行・ツアーは👉こちら


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