【はじめてのひとり旅の宿】湯滝の宿 西屋 <山形・白布温泉> おこもり宿で 温泉にひたる(1)
雪をかぶった茅葺き屋根の母屋は築200年。2025年、葺き替えを予定している。玄関前に立つのは主人の遠藤友紀雄さんと女将で湯守の央子さん
力強い湯滝に打たれ雪の宿で過ごす一夜
鎌倉時代末期の1312年創業と伝わり、茅葺(かやぶ)き屋根の母屋が残る「湯滝の宿 西屋」は、山形県南部の米沢駅からバスで50分ほどの白布温泉にある。標高は約850メートル。冬の積雪は毎年2メートルを超えるという。この日も雪模様。バスは除雪車と何度もすれ違い、辺り一面雪景色の山間部へと進んだ。
白布温泉は福島県の裏磐梯(ばんだい)方面へ通じる街道沿いに3軒の旅館がある静かな温泉地だが、冬はその先が通行止めとなるため秘湯感が増す。白布温泉バス停で降りると、宿はすぐ。茅葺き屋根も雪に覆われていた。玄関前で雪かきをしていた主人の遠藤友紀雄さんに、「たいへんな時に来ましたなあ」と労(ねぎら)われたが、3時間半ほど前まで快晴の東京にいた身としては、非日常感に胸が騒いだ。この雪では周辺散策もままならない。湯宿にこもる覚悟が決まった。
コロナ禍でひとり客が増えたことから、ひとり用の部屋を5室作ったという。案内された部屋は6畳和室にベッドが置かれ、窓を開けると、軒先に大きなつららがいくつも伸びていた。荷ほどきも早々に浴場へ向かった。

ひとり用の「河鹿の間」。近くを流れる沢の音が聞こえてくる

ロビーから客室、浴場へ向かう廊下は磨きこまれ、凛(りん)としたたたずまい
浴場はその名も「湯滝風呂」。3メートルほどの高さにある3本の樋(とい)から、滝のごとく湯が流れ落ちている。いわゆる打たせ湯の要領でその下に立ち肩や腰に湯を当てると、こりがほぐれるなどの効果が期待できるのだが、その勢いたるやまさに滝のごとし。想像以上の圧力だ。流れ落ちる湯が床をたたく音もけたたましい。
落ちた湯は御影石で組んだ湯船に流れ込み、湯滝とは反対側の湯船のふちから、あふれた湯が外へ流れ出る。文字通りかけ流しの温泉だ。

湯滝風呂。左奥の打たせ湯から手前の湯船へ温泉が勢いよく流れ込んでいる。湯船は江戸時代中期に造られたそう。右奥の湯船は高温の源泉が注がれ、かけ湯に使う。日帰り利用(700円)もできる

豪快な打たせ湯。湯屋の一部は開放され、雪が舞い込むこともある
泉質はカルシウム―硫酸塩泉。かすかに硫黄臭を感じるが濁りはまったくなく、湯船の底からまき上がる湯の花が鉱石のようにキラキラと光りながら漂っていた。ほかに家族風呂が一つあり、空いていれば滞在中いつでも無料で入れる。こちらは湯滝風呂とは対照的に「静」の世界。ちろちろと流れ落ちる湯音を耳に、湯船でまどろみそうになった。

貸切風呂も24時間いつでも利用できる(日帰り利用不可)
美味を味わい眠る、翌朝はまた深い雪

夕食は、前菜とビュッフェスタイルのおばんざいが基本。これに米沢牛のすき焼きが付くプランがひとり泊データの料金1万9950円〜(写真は2人前)

ビールや燗酒以外のアルコール、ソフトドリンクは飲み放題
【はじめてのひとり旅の宿】湯滝の宿 西屋 <山形・白布温泉> おこもり宿で 温泉にひたる(2)へ続く
文/渡辺貴由 写真/齋藤雄輝

湯滝の宿 西屋
TEL:0238-55-2480
住所:米沢市関1527
【ひとり泊データ】
条件:通年可
客室:トイレなし6畳和室など(全15室)
食事:夕・朝食=食事処
<料金(税込)>
素泊まり 平日1万1150円~/休前日1万2250円~
1泊朝食 平日―/休前日―
1泊2食 平日1万9950円~/休前日2万1050円~
※ 2人1室利用も同料金。湯治おばんさいプランは1万3350円〜
交通:山形新幹線米沢駅からバス50分、白布温泉下車すぐ/東北中央道米沢八幡原ICから20キロ


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