旅よみ 俳壇 旅行読売2026年4月号
目黒川の川面を彩る花筏(写真/ピクスタ)
【特選】
花散るや深く掘られし目黒川
◉世田谷区 石川 昇
<評>作者のお住まいの世田谷区を流れる烏(からす)川などが合流して目黒川になっていること、調節池などが造られて水害が少なくなったことなどに思いを馳(は)せる。桜咲く両岸を科学的な眼で見下ろしている作者の思考回路が面白い。
【入賞】
望郷の山を銘とす新走(あらばし)り
◉八王子市 沼田博古
<評>たまたま故郷の山の銘柄に出合ったのか、または、じきじきに新酒を取り寄せたのか。銘柄を楽しむことは酒の楽しみの一つである。
吉(よ)き事のあれと雪降る鬼首(おにこうべ)
◉市川市 井田わたる
<評>宮城県鳴子温泉郷の一部、鬼首温泉。伝説が由来というおどろおどろしい地名と雪との対比、そして作者の願いの美しさにひかれた。
物干にうつぼ吊(つる)しの冬港
◉伊予市 福井恒博
<評>鋭い歯と大きな口のひょろ長いウツボ。見た目は悪いが食べると白身でけっこう美味。吹きさらしのウツボと冬の荒々しさが合う。
長風呂の妻を廊下に待つ湯冷め
◉伊賀市 藤下 恒
<評>「30分ぐらいで出て来るから廊下で待っててね」の一言で、このような経験をお持ちの殿方がかなりおられるのではないか。
【入選】
雪吊師(ゆきつりし)の揃(そろ)ひ半纏(はんてん)松の柄
◉川口市 清正風葉
大島も近くに見えて避寒宿
◉川崎市 柳内恵子
アメ横に入らば師走の顔となり
◉埼玉県宮代町 三神岳酒
政宗の槍(やり)に氷柱(つらら)の光りけり
◉ 大田区 豊島 仁
濁り湯に雪の日と開溶け行けり
◉さいたま市 竹内白熊
初参びんずるさんの膝撫(な)でる
◉江戸川区 岩井千恵子
葱(ねぎ)の畝(うね)高々とあり但馬(たじま)かな
◉ 横浜市 相沢恵美子
年越の花火やオペラハウス背に
◉杉並区 森 秀子
初茜(あかね)天栄村(てんえいむら)の梢(こずえ)より何もかも忘れて秘湯十二月
◉足立区 太田君江
何もかも忘れて秘湯十二月
◉成田市 小川笙力
【佳作】
秋晴れの津和野太鼓のキレのよさ
◉久留米市 山本清司
夕蛍葉先へ伸ばす指の先
◉中央区 豊澤佳弘
案の定時雨となりし嵯峨野かな
◉ 足立区 山崎勝久
落葉踏む音が会話になっていく
◉神奈川県中井町 笹尾雅美
青き皿飾るモスクの冬日和
◉新宿区 居林まさを
山路ゆく顔に木の葉の降るばかり
◉相模原市 妹尾茂喜
着ぶくれて朝一番の列車待つ
◉埼玉県吉見町 青木雄二
旅立ちや膳の浅漬残すまじ
◉茨城県利根町 中澤則明
年越した亀も息整へはじめ
◉神奈川県中井町 竹和世
流行語クマが割り込む年の暮れ
◉東松島市 巡り人

<選者>「墨BOKU」代表 津髙里永子(つたか りえこ)
兵庫県出身。「小熊座」同人。よみうりカルチャー講師。句集に『地球の日』『寸法直し』、著書に『俳句の気持』など
津髙里永子先生の総評
「たびよみ俳壇なんて平和だわね、育児や介護で、それどころではないわよ、まったく!」なんて思いながら、このウェブ、または雑誌を見ておられるかたもいらっしゃると思います。
私も日ごろの雑用その他もろもろで、旅に行きたくても行けないときが多々あります。そういうときには気分転換の旅をすることにしています。家にまっすぐ帰らなくてはいけないけれど、ほんの10分、駅近くの喫茶店で珈琲(コーヒー)を飲んだり、いつもと違う道を歩いてみたりして、ワンクッションを置くんですね。
じっさいに行ったことのないところでも、一句に詠んでみるというのも気分転換になるかもしれません。俳句は経験したことを詠むほうが、読者に印象強く伝わると思いますが、少しぐらいのウソ(創作)も、自分が感じたことなら、時にはよいのではないかと思います。ただ、例えば、他人が撮った写真を見て一句を作ったとして、それで自分が満足するかどうかは、別問題だと思いますが、一生のうちに行けるところなど、限られていますから、ね。
津髙里永子先生のワンポイント俳句講座
「短冊や色紙に書いてみよう」
色紙の大きさはいろいろあるようですが、俳句を書くとすれば、寸松庵(136×121ミリ)と呼ばれる大きさか、豆色紙(76×76ミリ)と呼ばれる手のひらサイズのものが一般的です。ちゃんとした和紙の色紙でなくても、画用紙やコビー紙、または包装紙の裏でもだいたいのサイズに切って用いれば立派な色紙となります。短冊と呼ばれる細長いもの(61×364ミリ)も、同じように、それなりのサイズに自分で切って作れます。
俳句と創作とのコラボを楽しむ。東京都内で行われた「墨BOKU第10号達成記念展」で
書く文具は、墨を擦って筆で書く、筆ペンで書く、万年筆などで書くなど、自由ですが、たまには筆ペンあたりで書いてみるのも楽しいですよ。
基本的に四角い色紙には、上五・中七・下五と三行に書き、短冊は上を少しあけて、上五中七下五とのあいだはあけず、ずらずらと一行に書きます。その下、またはその横に名前を書き、印を押します。認め印では味気ないので、消しゴムなどで、「りえこ」なら「り」の一文字削って作ったりして、朱肉で押せば出来上がり。めんどくさい人は赤ペンで「り」とか「里」とか書いてもそれらしくなると思います。
あ、その前に、まず、作った句の中から、それに書く句を決めなくてはなりませんね。
【応募方法】
旅で詠んだ俳句、風景や名所を詠んだ俳句をお送りください。特選句には選者の直筆色紙と図書カード、入賞句には図書カードを進呈します。応募には「月刊旅行読売」に添付の「投句券」が必要です。「月刊旅行読売」は全国の書店またはこちらの当社直販サイトで送料無料でお求めいただけます。
(出典:旅行読売2026年4月号)
(Web掲載:2026年2月28日)
※連載「旅よみ俳壇」トップページはこちら

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